がんとつきあう(がん治療の副作用)リンパ浮腫ふしゅ(むくみ)の症状と原因

リンパ浮腫の症状

がんの治療のために行う、リンパ節を取り除く手術や放射線療法、一部の薬物療法によって引き起こされるリンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることにより、浮腫をはじめ以下のような症状が現れます。初期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、重症化させないためには、なるべく早く気付くことが重要です。

リンパ浮腫の主な症状※1

  • 腕や脚がむくむ
  • 腕や脚が重く、だるさを感じる
  • 浮腫近くの関節(手、手首、肩など)の動きや柔軟性が低下する
  • 皮膚の一部がつっぱったり、ヒリヒリしたり、しびれたりする
  • 衣服やアクセサリーがきつく感じる、衣服の着用がしにくい

重症化すると現れる主な症状※2

  • 浮腫が悪化する
  • 皮膚が硬くなり、浮腫がひきづらくなる
  • 皮膚が分厚くなってイボやトゲ状になる「象皮症(ぞうひしょう)」を発症することがある
  • 皮膚に1~2mm程度の袋状のイボが生じる「リンパのう胞」や、リンパ液が皮膚から漏れ出してくる「リンパ漏(ろう)」が生じることもある

このように、重症化すると皮膚組織の変化がみられます。

治療後の副作用や後遺症としてリンパ浮腫を生じやすいのは、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、皮膚がんなどの治療後です※3。一般的に乳がんでわきの下(腋窩)のリンパ節を切除した場合(リンパ節郭清[かくせい])にはわきの下から腕にかけて、婦人科がんや泌尿器科がんでおなかや脚のつけ根(鼠径)のリンパ節を切除した場合には下腹部、陰部、脚の付け根(内もも)あたりに、放射線療法をした場合はその部位周辺に、それぞれ症状がみられます※4

蜂窩織炎(ほうかしきえん):リンパ浮腫に伴う合併症(細菌感染)

リンパ節の切除や放射線療法によって起こるリンパ浮腫は、蜂窩織炎と呼ばれる合併症を引き起こすことがあります。

蜂窩織炎は、傷や虫刺され、免疫力低下などが原因となって細菌感染が引き起こされることで発症します。その結果、むくみの出る範囲の皮膚が広範囲に炎症を起こします※5
蜂窩織炎を発症すると、次のような症状が現れることがあります※5

  • 赤い斑点
  • 皮膚の赤み
  • かゆみ
  • ピリピリした痛み
  • 38℃以上の高熱が出る

蜂窩織炎を発症したら、まずは安静にして患部を冷やしましょう。また、リンパドレナージ(手を使って行うリンパ排液マッサージ)、圧迫療法、運動療法などの治療は一時休止します※5, 6。治療には、抗生剤が用いられることもあります※6。異変を感じたら、すぐに医療スタッフに相談しましょう。

リンパ浮腫のチェック法

リンパ浮腫は一度発症すると徐々に進行するという特徴がありますが、適切なケアをすることで改善も期待できます※5。そのためリンパ浮腫を早期発見し、早めのケアを行うことが重要です。以下のチェックリストに当てはまる症状がみられる場合は、医療スタッフに相談しましょう。

※注意
このチェックシートは、疾患の診断に代わるものではありません。チェックの結果、問題や異常がなくても、不安や気になることがあれば必ず医療機関を受診してください。

リンパ浮腫のチェック法
  • 腕や脚が重く感じる※4
  • 皮膚のしわがなくなる、つまみにくい※4
  • 指で押すと痕が付く※4
  • 左右の腕や脚の太さが違う※4
  • 皮膚が硬い※7
  • 皮膚が乾燥している※7
  • 関節が動かしづらい※4

なお、リンパ浮腫に気付くために腕と脚の周囲を測定しておくことも推奨されています※7
手術前後での比較や、定期的に左右差を調べることで早期発見、増悪・改善の指標にも役立ちます。日本癌治療学会が提供しているリンパ浮腫診療ガイドラインでは、両側四肢のいずれかの部位で2cm以上の左右差が出れば、臨床的に意味のある差であるとしています※7。2cm以上の差がみられた場合は、医療スタッフに相談しましょう。
具体的な測定部位として、手のひら・手首・ひじから手先側5cm、ひじ上10cm、ひざから足先側5cm、ひざ上10cm、脚の付け根、足の甲、足首の周囲の長さを測ります※7。より正確に確認するために、同じ時間帯に同じ部位を測りましょう。

リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫は、リンパ節郭清(切除)を伴う手術や放射線療法による副作用や後遺症のひとつで、リンパ管を流れるリンパ液の流れが滞ることで生じる浮腫のことです。

リンパ管とは、動脈や静脈と同じように体中に張りめぐらされた管のことで、リンパ管のなかには、静脈に吸収できなかったタンパク質や老廃物などが素になって作られるリンパ液が流れています。リンパ管には所々にリンパ節があり、体の害となる物質を取り除くフィルターのような役割をしています※5

がんの治療において、リンパ管やリンパ節が切除されたり損傷したりすることでリンパ液の流れが悪くなり、組織に溜まることで浮腫へとつながります※5

リンパ浮腫は、治療後すぐにみられることもあれば、10年以上経過してからみられることもあり、発症する時期には個人差が大きいのも特徴です。気になる症状や異変を感じたら、医療スタッフに伝えましょう。

※1 American Cancer Society What Is Lymphedema?
https://www.cancer.org/treatment/treatments-and-side-effects/physical-side-effects/swelling/lymphedema/what-is-lymphedema.html 2023/1/16参照

※2 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 リンパ浮腫の原因や症状、合併症について
https://www.hosp.ncgm.go.jp/aboutus/medicalnote/s028/001/index.html 2023/1/16参照

※3 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集 リンパ浮腫
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/lymph_fushu.html 2023/1/16参照

※4 国立がん研究センター がん情報サービス リンパ浮腫 もっと詳しく ~がんの治療を始める人に、始めた人に~
https://ganjoho.jp/public/support/condition/lymphedema/ld01.html 2023/1/16参照

※5 国立がん研究センター 中央病院 リンパ浮腫についての基礎知識
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/power/010/030/index.html 2023/1/16参照

※6 一般社団法人 日本リンパ浮腫学会 6)蜂窩織炎
https://www.js-lymphedema.org/?page_id=704 2023/1/16参照

※7 リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版 第3版(編集:日本リンパ浮腫学会)
http://www.jsco-cpg.jp/lymphedema/guideline/ 2023/9/22参照

【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生

更新年月:2023年10月

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