肺がんを学ぶ治療と副作用 / 薬物療法

肺がんの治療と副作用薬物療法と副作用

薬物療法

薬物療法とは抗がん剤による治療のことで、広い範囲のがん細胞を攻撃する治療法です(全身療法)。

非小細胞肺がんでは病期に応じて手術や放射線治療と組み合わせて、あるいは単独で抗がん剤治療を行います。小細胞肺がんは診断された時点で転移がみられることが多い一方で、非小細胞肺がんに比べて抗がん剤治療の効果が高いため、抗がん剤が治療の中心となります。

分子標的治療

最近では、遺伝子やDNAの塩基配列えんきはいれつを調べることができるようになり、がん細胞のDNAのどこに異常があるのかわかるようになってきました。これを利用した治療法が「分子標的治療」です。

現在、肺がんの分子標的治療に使う分子標的治療薬には「上皮成長因子受容体(EGFR )遺伝子変異」に効果のあるお薬(EGFRチロシンキナーゼ阻害剤)と、「未分化リンパ腫キナーゼ(ALK )融合遺伝子」に効果のあるお薬(ALKチロシンキナーゼ阻害剤)が承認されています。

薬物療法

薬物療法の副作用

一般的に抗がん剤は、細胞が分裂・増殖する過程に働きかけて、細胞の増殖を抑えます。

がん細胞は活発に分裂・増殖している細胞なので、抗がん剤の効果が期待されます。しかし、腸の細胞や、髪の毛を造る細胞、血液を造る細胞なども活発に分裂・増殖しているため、影響を受けやすく、様々な副作用があらわれます。

副作用の現れ方は人によって様々ですが、大事なことは、以下のような症状が出たり、異変に気付いたらすぐに医師や看護師に伝えることです。

悪心おしん・嘔吐

悪心・嘔吐は薬物療法を受ける患者さんで最も多くみられる副作用で、あらわれる時期により

  1. ①急性悪心・嘔吐(抗がん剤による治療後数時間以内に起こり、24時間以内にみられなくなる)
  2. ②遅発性悪心・嘔吐(24時間後以降から2~7日間続く)
  3. ③予期性悪心・嘔吐(前回の経験などに関連する不安から生じる)に分けられます。

薬物療法による悪心・嘔吐は薬剤によってコントロールできることも多いため、過剰な不安を持たず、医師や看護師に相談しましょう。

なお、もし悪心や嘔吐で食事がとれない場合でも水分はこまめに摂取しましょう。

骨髄抑制

血液は骨髄で造られますが、抗がん剤によりこの機能が一時的に抑えられてしまうため、白血球(好中球)や赤血球、血小板などが減少し、感染症や貧血、出血のリスクが高まります。

特に白血球と好中球の減少時には重度の感染症を引き起こす可能性が高くなるため、感染症を予防することが重要です。

骨髄抑制の程度や時期、抑制される血球の種類は、薬剤の種類などによって異なるため、自分の受けている治療のどの時期で最も注意が必要となるのかを医師に確認し、手洗いや口腔ケアなどで感染症を予防するようにしましょう。

便秘

抗がん剤の種類によっては、腸の自律神経に障害が起こり、腸の運動が低下して便秘になることがあります。便秘によって肛門を傷つけてしまうこともあるため、肛門を清潔に保ち、出血や痛みが強い場合には受診しましょう。

治療後3~10日が最も便秘になりやすい時期ですが、排便状況を確認し、セルフケアを行うことも大切です。

治療前から便秘傾向のある患者さんに対しては緩下剤(作用の穏やかな便秘薬)や整腸剤をあらかじめ処方される場合があります。

下痢

薬物療法時の下痢には、早発性のものと遅発性のものがあります。

早発性の下痢は、薬によって副交感神経が刺激されて腸の活動が活発になるために起こり、多くは治療当日に起こります。遅発性の下痢は、薬によって腸の粘膜がダメージを受けるために起こり、治療後数日経ってから起こります。

対処法としては、整腸薬や止瀉薬ししゃやく(下痢止め)の服用や、消化の良い食事などがあります。

下痢によって、脱水や電解質異常(ミネラルバランスの異常)、循環不全などが引き起こされることがあり、感染症などの原因になる可能性もありますので、症状がひどかったり何度も繰り返したりする場合は医師や看護師に相談しましょう。

脱毛

抗がん剤はがん細胞にダメージを与えますが、正常な細胞、特に細胞分裂が活発な細胞もダメージを受けてしまいます。

髪の毛を造る細胞も細胞分裂が活発なためダメージを受けやすく、そのため抗がん剤による治療を行うと脱毛が起こります。

脱毛は抗がん剤による治療の開始から2~3週目に起こりますが、ほとんどの場合、治療終了後3~6ヵ月で再び毛が生えてきます。

抗がん剤を始める前に、前もって髪を短くしたり、自分にあったカツラや帽子、スカーフなどを準備しておくと、イメージの変化や心理的なショックを和らげることができ、これまで通りの生活を維持しやすくなるでしょう。

肺障害

薬剤による間質性肺炎は、生命に危険が及ぶことがあります。

息苦しい、坂道や階段を上ったり運動をしたときに息切れがしやすくなった、乾いた咳が続く、発熱などの症状が認められた場合は、「ただの風邪だから」「今までも同じような症状があったから」と思い込まずに、すみやかに担当医に連絡しましょう。

薬剤アレルギー

抗がん剤に限らず、どの薬剤にもアレルギー反応が起こる可能性はあります。

特に全身の過剰なアレルギー反応であるアナフィラキシー反応が起こると、急激に血液の循環がうまくいかなくなり、生命に危険が及ぶ状態になることもあります。治療中または治療後に異変を感じた際には、すぐに医師や看護師に報告してください。

腎障害

薬物療法によって腎臓に障害が起こることがあります。

腎臓の機能が低下すると抗がん剤が体の外に出ていきにくくなるため、様々な副作用が起きやすい状態になってしまいます。そのため、治療中は定期的な検査を行って、腎機能の低下を早く発見して対応することが重要になります。

腎機能が低下すると尿の量の減少や体重の増加、むくみなどが見られるため、毎日(同じ時間、同じ条件で)体重測定を行うなどして、これらの徴候がないか注意しましょう。

静脈炎

抗がん剤は正常な細胞も傷つけてしまうため、抗がん剤を静脈投与した時に静脈が炎症を起こすことがあり、これを静脈炎といいます。

また、抗がん剤が血管外に漏れると、皮膚や皮下組織に炎症を起こすことがあります。炎症の起こしやすさや程度は、薬剤の種類や濃度、量などによって異なりますが、場合によっては炎症だけではなく組織が壊死してしまうこともあります。

なお、薬液の漏れの第一発見者は患者さん自身であることが多いので、気づいた時には痛みを我慢したり点滴ラインを引っ張ったりせず、直ちに医師や看護師に報告しましょう。

末梢神経障害

抗がん剤による治療で神経障害が起こるしくみはまだよく分かっていませんが、末梢神経障害が発現すると手足の指先に刺すような痛みやしびれを感じたり、深部腱反射の低下、筋力の低下などが起こります。

1回で投与した抗がん剤の量や、治療全体で使用した量が多いほど発症しやすいとされています。

日常生活のなかで気づく症状としては、ボタンが留めづらくなる、ペットボトルの蓋が開けられなくなる、つまずきやすくなる、リモコン操作がしづらくなるなどがあります。

確実な予防法はまだないため、早期発見、早期対応が重要となります。末梢神経障害ではないかと思ったら、早めに医師、看護師に相談しましょう。

【監修】日本医科大学付属病院 がん診療センター長 教授 久保田 馨先生

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