「坂本はと恵氏コラム」治療も仕事もあきらめないために ~社会保障制度の活用術~障害年金を受けるための交渉術

現在わが国には、さまざまな治療費を支援する制度や生活を支援する制度があります。それらは、がん治療を受ける間の生活の基盤を確保し、がん患者さんが治療を完遂できるよう支援することを目指しています。

障害年金は、働く世代でも病気やけがなどで一定の障害が生じたときに支給される公的年金制度のひとつです。
障害年金の認定は、目に見えて身体の機能が変わった場合だけでなく、がんの治療による倦怠感(だるさ)や末梢神経障害(しびれ、痛み)、貧血、下痢、嘔吐、体重減少など客観的にわかりにくい内部障害の場合にも該当します。

ここでは障害年金を申請するためにどのような工夫をしたらよいか、具体例をあげてご紹介します。

重要なのは、がんにより、どれだけ日常生活や仕事に支障が出ているかを具体的に示す事

独立行政法人 国立がん研究センター東病院 患者・家族支援相談室/医療連携室 坂本はと恵氏
独立行政法人
国立がん研究センター東病院
患者・家族支援相談室/医療連携室
坂本はと恵氏

障害年金の認定は、目に見えて身体の機能が変わった場合だけでなく、がんの治療による倦怠感(だるさ)や末梢神経障害(しびれ、痛み)、貧血、下痢、嘔吐、体重減少など客観的にわかりにくい内部障害の場合にも該当します。

しかし、そのような障害は生活や仕事への支障がわかりにくいため、書類の書き方によって受理の可否が分かれることも少なくありません。 特に、障害年金申請の際に重要となるのは、申請者自身が記入する「病歴・就労状況申立書」と主治医の記入する「診断書」です。これらの書類で、がんによる障害によって、患者さんが携わっている仕事を遂行する能力、つまり就労能力が発病する前後でどれだけ低下したかを具体的に示す必要があります。

「病歴・就労状況申立書」の記載について、具体例を見てみましょう。
Aさんは、倉庫で梱包の作業をする仕事につきながら通院でがんの治療を受けていました。治療や副作用により、たまに会社を休む事はありましたが、月の9割は出勤できていました。
しかし、治療の副作用である末梢神経障害により、手足がしびれて力が入らず、効率よく作業ができません。20分は何とか作業できても、その後40分くらい休まないと軽いものも持てない状態です。その結果、職場には以前とほぼ変わらない時間帯で出勤していても、作業量は以前に比べると3割程度にとどまり、収入も下がってしまいました。

「病歴・就労状況等申立書」に「1ヵ月間の出勤日数」を18日と書き、就労状況を「休み休みですが仕事をしていました」というような漠然とした書き方で提出すると、出勤しているし、ある程度仕事もできているからと認定されない可能性があります。

では、どのように書けばよいのでしょうか?
たとえば、Aさんの場合、1ヵ月間の出勤日数は18日ではあるけれども、「20分作業したら40分休むというペースで、発病前と比べて3割くらいしか働けない状態です」というように、がんによる障害により、いかに仕事をする上で大きな支障をきたしているか、具体的に書く必要があります。目に見えない障害だからこそ、具体的な体験やエピソードを盛り込む必要があるわけです。また、仕事上の支障だけではなく、それを裏付ける日常生活で不自由になった事などを盛り込む事も大切です。
また、それらは必要な時に具体的に思い出せるようにするため、日々の出来事を日記などに書きとめておくとよいでしょう。

■記入例

出勤日数 18日(すべて出勤したら20日としたとき)
仕事中の身体の様子 手のしびれにより、ものがうまくつかめない。20分作業したら40分休むというペースで、発病前と比べて1日のうち、3割くらいしか働けない状態。
収入 7万円。以前の収入(手取り20万円)の1/3に減った。
日常生活の様子 ペットボトルのふたが開けられなくなった。ぞうきんが絞れなくなった。以前に比べ、食事の量が半分に減った。吐き気により、まったく食べられない時もある。

「病歴・就労状況等申立書」には、特に主治医が記入する診断書には書かれてない多くの日常的エピソードを時系列に書いていくことが重要です。場合によっては、「日常生活で支障のある状況」として、別紙にまとめ、申請時に添付するといった工夫もできますので、是非取り組んでみてください。

医師による診断書の内容との整合性が受給の可否を決めるカギ

主治医に就労への支障や障害の度合いを裏付ける診断書を書いてもらうことも大切です。
医師の記入する診断書の内容と整合性がとれていないと、障害年金を受給することは難しくなることもあります。
医師は、診察室での患者さんの様子しか知りません。患者さんが、発病前にどういう仕事をしていたのか、がん治療に伴う様々な障害によって、日常生活や仕事にどのような支障をきたしているのか、患者さんを通してしか知ることができません。

主治医には、がんによって仕事や生活に支障をきたしている事柄を具体的に伝え、「障害年金の診断書作成の際に参考にしてください」と伝えましょう。医師と直接面談することが難しい場合は、診断書作成依頼時に、メモを添付するなどの工夫も有効です。

とはいえ、障害年金の申請には、耳慣れない言葉がいくつも出てきますし、実際に患者さん自身やご家族が申立書を書いたり、直接医師に話すのは難しいところもあるでしょう。困ったときは、病院の相談室やソーシャルワーカーに相談し、主治医との橋渡しをしてもらうとよいでしょう。

障害年金申請のポイント

  1. 日々の日記を書く
    書き留めておくとよい内容
    • 日常生活で不便なこと
      ・どの程度できて、どの程度支障があるのか
      (ペットボトルのふたが開けられないなど)
    • 食事の量
    • 職場での様子
      • 仕事をする上で一番困ることは何か
      • 身体的な負担が具体的にわかるように明記することも重要
        (ものがうまくつかめず、ミスしてしまったなど)
      • 日々の労働時間
    • 出勤日数、勤務時間、休み時間
    • 給料の変動
  2. 病院の相談室やソーシャルワーカーに協力を求める
  3. 主治医の先生に障害年金を受けたい旨を伝え、診断書に書いて欲しい内容を具体的に伝える(診断書を申請する際に、書いてほしい内容をメモに書いて添付すると良いでしょう)

※個々のケースにより異なります。

【監修】独立行政法人 国立がんセンター東病院 患者・家族支援相談室/医療連携室 坂本はと恵氏

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