がん患者さんのお悩み相談室 ~がんとお金~がん治療で休職中の給料はどうなるのか?

Q.がん治療で仕事を休んでいるときのお給料は、どうなるのでしょうか?

会社の病気休暇制度を確認しましょう。給料の支払いがない場合は、公的なサポートが受けられます

病気休暇に関する会社の制度を確認する

がん治療のために、一定期間、会社を休まなければならない・・・。治療前の患者さんにとって、休職中の収入は、不安に思うことのひとつではないでしょうか。全国の「がん診療連携拠点病院」に設置されているがん相談支援センターには、「がんで入院して仕事を休んだら、お給料はどうなりますか?」「休職中にお金をもらえる制度がありますか?」「他の患者さんたちはどうされていますか?」「がん治療にはお金がかかるのに、収入(給料)がなくなってしまったらどうすればいいのでしょうか?」など、休職と給料についての相談事が多く寄せられるといいます。

会社に所属されている方であれば、まず会社の就業規則で定められている、休暇制度を確認してみましょう。休暇の種類や取得条件は職場によって異なります。ご自身の職場の、傷病休暇・病気休暇制度の設置状況や制度設計を確認し、必要な手続きについて尋ねてみるとよいでしょう。

傷病手当金を申請する

休職期間中に会社から給料が支払われない場合のサポートとして、傷病手当金があります。これは、会社員や公務員が病気やケガで会社を休む際、定められた支給額が加入する健康保険(国民健康保険を除く)から補償される制度です。病気やケガの療養のために仕事に就くことができず、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない、その期間の賃金を受けていない、といった条件に該当する場合には、給料の約3分の2が最長1年6カ月、支給されます。

有給休暇を上手に使う

紙に計画を書き出す

傷病手当金は、休職中の心強いセーフティネットですが、支給を受ける際には少し注意が必要です。傷病手当金は、ひとつの病名で使える期間が、支給開始日から最長1年6カ月と定められています。これは暦のうえで計算した期間であり、実際に受給した期間ではありません。例えば、受給開始日から通算して1年6カ月後には受給期間が満了し、これを経過すると使えなくなります。傷病手当金の支給を受ける際は、治療と復職の見通しを見極めて、申請を検討することをお勧めします。

例えば、ご自身で加入されている生命保険の制度をよく確認して、休職中の補助に代わるものがないかどうかも調べてみましょう。また、会社の有給休暇を上手に使うことも有効です。傷病手当金は、支給開始から通算して1年6カ月。治療が終わってから申請することも可能ですので、この制度を使うか使わないかは、他の権利などと治療の見通し、ご自身の復職スケジュールなどをよく見極めて申請されるとよいでしょう。

ある調査によれば、傷病手当金制度を「知らなかった」という人が、かなりの割合でいらっしゃいました。制度を知っているのと知らないのとでは、がん治療中の安心感が大きく変わるのではないでしょうか。

付加給付金を確認する

休職中の収入と同時に、患者さんが経済的に不安を感じるのは、「がん治療にはお金がかかるのではないか」ということです。がん患者さん、みなさんに利用していただきたい制度としてお伝えしているのが、医療費支払いの自己負担を軽くする、高額療養費制度です。この制度を利用すれば、医療費の自己負担限度額が定められ、病院や薬局で支払う医療費の上限が決まります。

会社が加入している健康保険組合によっては、高額療養費制度で定められた自己負担限度額に「付加給付制度」を付けているところがあります。高額療養費制度にプラスして健康保険組合が補てんしてくれるもので、個人が支払う限度額はさらに少なくて済むようになります。

例えば、治療費が100万円だったとします。自己負担は3割で30万円支払う必要が生じます。高額療養費制度を活用した場合、限度額は条件によって異なりますが、仮に限度額が8万円とします。これに健康保険組合の付加給付金が仮に2万円と設定されていれば、ご自身が医療費として支払う金額は、6万円で済みます。これも、知っていた方がよい制度といえるでしょう。

会社にお勤めの方は、念のため、ご自身が加入する健康保険組合に、付加給付金制度のことを確認されるとよいでしょう。問い合わせは特に会社を通す必要はありません。直接、健康保険組合の問い合わせ窓口に、付加給付制度の有無と、あれば申請手順などを尋ねてみるとよいでしょう。

※協会けんぽ、国民健康保険に付加給付はありません。

経済面の負担を軽減するその他の制度

がん治療中の経済面の負担を軽減する公的な制度は、他にもあります。生活の状況や身体状況により、ご自身が該当する制度がないかどうか確認してみましょう。

高額医療・高額介護合算制度

毎年8月から1年間の、同一世帯における医療保険と介護保険の自己負担額の合計が、基準額を超えた場合に、超えた金額が還付される制度です。各市町村の介護保険窓口に申請します。

障害年金

永久人工肛門、尿路変更術、新膀胱造設、咽頭全摘出、在宅酸素療法、治療の副作用による倦怠感、体重減少などの全身衰弱など、病気により身体の状況が変化した場合に支給される年金です。申請時期は初診時から1年6カ月経過後、または症状が固定したと判断される場合は、その事実が生じた日で、年金事務所または市町村に申請します。

ひとり親家庭医療費助成制度

ひとり親家庭(離婚や死別、婚外出産などの理由で、ひとりで子育てをしている家庭)の医療費を助成する制度です。自治体によって条件が異なるため、各市町村の育児、医療助成などの窓口に相談してみましょう。

医療費控除

1年間に10万円を超える多額な医療費を支払った場合、確定申告を行うことにより、支払った所得税が還付される制度です。

まとめ:会社の制度や公的制度を確認する

休職中の給料が支払われるか、病気休暇の期間などは、会社の規定によりそれぞれ異なります。治療方針と期間の見通しがたったら、できるだけ早めに会社に確認してみましょう。また、傷病手当金など公的なサポートは、申請のタイミングも大切です。がん相談支援センターには、専門の相談員が常駐しており、がん治療に関する情報の提供や仕事や生活に役立つ助成や支援制度の紹介、主治医とのコミュニケーションのお手伝いなどをしています。がん治療をスタートするにあたり、「自分が申請できる制度はあるのだろうか?」といったお金の疑問に対しても、相談されるとよいでしょう。

【監修】国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター/がん相談支援センター 坂本はと恵氏

更新年月:2022年11月

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