がん患者さんのお悩み相談室 ~がんとお金~がん治療で収入が減少してしまった

Q.がん治療で仕事を休んだり、残業ができなくなったりして、収入が減少してしまいました

さまざまな補助や支援制度を利用し忘れていないか、見直してみましょう

公的制度や助成金などを利用し忘れていませんか?

がんの治療がはじまり、治療の見通しがたって復職された方の中には、がんと診断される前と同じようなパフォーマンスで仕事ができなくなる方もいらっしゃいます。また、働きながら治療を続けられる人もいらっしゃるでしょう。治療のためにたびたび休暇を取ったり、体力の低下から以前と同様の残業ができなくなったり、さまざまな理由で収入が減少してしまうケースがあります。収入面で不安を感じられたら、まず、公的制度や助成金などを見直し、利用し忘れているものがないか確かめてみることをお勧めします。

高額療養費制度を利用していますか?

病院や薬局で支払う金額が、定めによる自己負担限度額を超えた分について、後で払い戻される「高額療養費制度」は、利用されていますか? 自己負担限度額は、年齢や所得区分に応じて決定しますが、がん患者さんには必ず利用していただきたい、医療費支払いの自己負担を軽くする公的な支援制度です。

また、治療を継続している方なら、「限度額適用認定証」を申請しておくと、窓口での支払い上限があらかじめ設定されます。医療費が高額になっても自己負担額が一定の金額に収まるよう、手続きをしておきましょう。いずれも、ご自身が加入されている公的健康保険(健康保険組合、協会けんぽ≪全国健康保険協会≫、共済組合、国民健康保険など)に申請します。

もし、まだ「高額療養費制度」「限度額適用認定証」を利用していないのであれば、ぜひ申請してみてください。

医療費控除は必ず受ける

医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に10万円を超える医療費等を支払ったときに、税務署に確定申告を行うことにより、いったん支払った所得税が還付される制度です。高額療養費は、自己負担した医療費そのものの負担軽減を目的としているため、対象は保険適用の医療費のみで、それぞれの保険者が申請することにより還付を受けられます。これに対し、医療費控除は所得税の軽減を目的としており、原則として「生計を一にする」配偶者やその他の親族で支払った医療費等が対象です。治療のためのマッサージ代など、保険適用外の医療費や通院時の交通費、治療目的で購入した市販の薬代、介護費用など、ご家族の分も含めて控除の対象となりますので、給与所得者であっても確定申告をしてみましょう。確定申告には、治療に関わる諸費用の医療費控除の明細書又は医療保険者等が発行した医療費通知が必要です。必ず保管しておきましょう。発行されないものも認めてもらえる可能性がありますので、療養日記などに記録しておくことをお勧めします。

ご家族に介護サービスを利用されている方はいらっしゃいませんか?
―高額医療・高額介護合算療養費制度

もし、ご家族に介護サービスをご利用されている方がいらっしゃる場合には、高額介護合算療養費制度が適用になる可能性があります。高額介護合算療養費制度は、8月から翌年7月までの12カ月、同一世帯における医療保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に、超えた金額が還付される制度で、各市町村の介護保険窓口に申請するものです。

高額療養費制度は「月」単位で負担を軽減しますが、「月」単位での負担軽減でも多額な負担になる場合、「年」単位で負担を軽減しようというものです。高額療養費制度と同様、年齢や所得区分で自己負担限度額が定められています。70歳以上の高齢者を介護する課税所得145万以上380万未満がある会社員の方なら、医療費と介護費で年間67万円が自己負担(世帯負担)限度額となります。
例えば、給与所得者の年間医療費が50万円、72歳の親の介護費用が40万円かかった場合、世帯負担額は、50万円+40万円-67万円=23万円で済むという計算です。

傷病手当金は申請しましたか?

休職期間中に会社から給料が支払われない場合のサポートとして、傷病手当金があります。病気やケガの療養のために仕事に就くことができず、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない、その期間の賃金を受けていない、といった条件に該当する場合には、給料の3分の2(※注1)が通算1年6カ月支給されるもので、加入する健康保険(国民健康保険を除く)から支給される制度です。意外と知られていない場合があるので、がんの治療で休職期間中に給与が支払われなかった方は、一度加入されている健康保険に確認してみるとよいでしょう。

※注1:1日あたりの金額=(支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷30日×3分の2

障害年金の受給対象ではありませんか?

人工肛門(ストーマ)、尿路変更術、新膀胱造設、咽頭全摘出など、がん治療により身体の状況が変わった方は、障害年金を受給することができます。また、在宅酸素療法、治療の副作用による倦怠感、体重減少などの全身衰弱などにも適用されます。申請時期は初診時から1年6カ月経過後、または症状が固定したと判断される場合は、その事実が生じた日で、年金事務所または市町村に申請します。

生命保険の特約など、請求漏れはありませんか?

ご自身が加入されている生命保険の規約を、今一度じっくり読みこんでみましょう。振り返って確認すると、規約の見落としや該当する要件が見つかることが多々あります。契約内容に対して、請求漏れがないかどうか、再度チェックしてみるとよいでしょう。

まとめ:申請し忘れているものがないか、チェックする

皆さん、休んでいた仕事を1日でも早く挽回しようと無理をされがちですが、がん治療後の身体はご自身が思う以上に体力が低下しているものです。復職後1~2年は、ゆっくりと体力を回復させながら、ご自身のペースで仕事をしていくことをお勧めします。収入の減少に不安を感じられるかもしれませんが、まず、この記事で紹介した制度など、申請し忘れているものがないかどうか、チェックしてみましょう。いずれもご本人からの申告で適用される制度です。少しでも金銭面での不安が軽減される一助となることを願っています。

【監修】国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター/がん相談支援センター 坂本はと恵氏

更新年月:2022年11月

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