がん治療の基礎を学ぼう薬物療法とは(抗がん剤など)薬物療法は、お薬を用いてがん細胞を攻撃してがんを治したり、がんの増殖を抑えたり、また、がんの症状を和らげたりする治療法です※1。薬物療法には「化学療法(抗がん剤治療)」「ホルモン療法(内分泌療法)」「分子標的療法」「免疫療法」などの種類があります※1。薬物療法では、1種類のお薬を用いることもあれば、がん細胞への攻撃方法が異なる数種類のお薬を組み合わせることもあります※1。化学療法(抗がん剤治療)化学療法には、がん細胞の増殖を抑える細胞障害性抗がん薬を用います※1。化学療法を用いてがん細胞が分裂して増殖する仕組みを妨げます※1。化学療法はこのように、活発に増殖する細胞に作用します。そのため、がん細胞だけでなく皮膚や腸管、骨髄、毛根の細胞など、細胞が分裂、増殖することで機能を維持している組織や器官にも影響が及びます※2。一般的にみられる副作用としては、投与直後のアレルギー反応、投与から1~2週間程度の期間にみられる吐き気、食欲低下、だるさ、口内炎、下痢など、投与後2週間以降にみられる脱毛や手足のしびれ、皮膚の異常(色素沈着や乾燥など)などがあります※2,3。分子標的療法がん細胞だけが持つ特徴を分子レベルでとらえ、それを標的にするように設計された分子標的薬を用いて行う治療が分子標的療法です※4。がん細胞の増殖にかかわる特定の物質を標的にして、そのはたらきを妨げます※1。そのような物質があるかどうかは、バイオマーカー検査で調べることができます※1。分子標的薬には、小分子化合物と抗体薬の2種類があります※1。小分子化合物小分子化合物は、お薬の成分となっている物質(化合物)の大きさが小さいお薬です。がん細胞の増殖にかかわるタンパク質を標的にがん細胞のなかに入り込み、増殖を妨げます※1。抗体薬特定のタンパク質を標的として働く、抗体と呼ばれるタンパク質を使ったお薬です。がん細胞の表面にあるタンパク質と結合することで、そのがん細胞を直接攻撃するものもあれば、がん細胞の周りの環境に働きかけて作用するものもあります※1。分子標的薬による副作用はお薬の種類によってさまざまです※5。発熱、吐き気、寒気、だるさ、皮膚の発疹などが一般的です※5。頻度は少ないものの、重い副作用としてインフュージョンリアクションとよばれるアレルギーのような症状や、間質性肺炎、心不全、出血、消化管穿孔(穴があくこと)、塞栓症、皮膚炎なども報告されています※5。ホルモン療法(内分泌療法)がんの増殖は性ホルモンの影響を受けることがあります※1。前立腺がんでは男性ホルモン、乳がんや子宮体がんでは女性ホルモンがかかわっています※6,7。これらのホルモンの作用を抑えることによって、治療を行うのがホルモン療法です※1。ホルモン療法は、化学療法のようにがん細胞を攻撃するのではなく、がんの発育を阻止して進行を抑える治療法です※1。ホットフラッシュ(ほてり)や生殖器での症状、関節や骨・筋肉での症状などが出ることがあります。※1。免疫療法お薬が直接がん細胞を攻撃するのではなく、患者さん自身の免疫の⼒を利⽤してがんを攻撃するのが免疫療法です※8。免疫の中心的な役割を担っているのは白血球ですが、白血球に含まれるT細胞(Tリンパ球)はがん細胞を攻撃する性質を持っています※8。免疫療法のほとんどは、T細胞ががん細胞を攻撃する⼒を保つ(ブレーキがかかるのを防ぐ)、または、がん細胞を攻撃する⼒を強める(アクセルをかける)ことによってがん細胞を攻撃する⽅法です※8。免疫療法には、治療効果や安全性が科学的に証明された「効果が証明された免疫療法」と、治療効果や安全性が科学的に証明されていない「効果が証明されていない免疫療法」があります※9。効果が証明された免疫療法の中で使用されている主なお薬に「免疫チェックポイント阻害薬」があります※8。免疫チェックポイント阻害薬の仕組み※8がんを攻撃するT細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。T細胞の表⾯には「異物を攻撃するな」という命令を受け取るアンテナがあり、がん細胞にもアンテナがあります。がん細胞のアンテナはT細胞のアンテナに結合して「異物を攻撃するな」という命令を送ることができます。免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作⽤して、免疫にブレーキがかかるのを防ぐことで、がん細胞を攻撃する力を保ちます。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキをブロックして活性化させるため、免疫が働き過ぎることによる副作用が現れる可能性があります※8。この免疫に関与した副作用は「免疫関連有害事象(irAE、アイ・アール・エー・イー)」と呼ばれ、皮膚、消化管、肝臓、肺、ホルモン産生臓器に比較的多く生じることが知られています※10。種類としては間質性肺炎、大腸炎、1型糖尿病、甲状腺機能障害などのホルモン分泌障害、肝・腎機能障害、皮膚障害、重症筋無力症、筋炎、ぶどう膜炎などが報告されています※10。薬物療法は、患者さんそれぞれに合った治療法やスケジュールで行われます。治療後は治療効果を⾒ながら継続して治療したり、ほかの治療法を検討したり、いったん休止して経過を観察したりします。治療期間が長期にわたることもありますので、詳細については医療スタッフから説明を受け、不明な点は相談するようにしましょう。また、ご自身の治療で可能性のある副作用については治療前に医療スタッフに聞いておくと良いでしょう。【出典】※1 国立がん研究センター がん情報サービス 薬物療法 もっと詳しくhttps://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html 2024/11/6参照※2 患者さんと家族のための肺がんガイドブック2023年版 第4章 治療の概要 4-3 薬物療法 Q42(編集:日本肺癌学会)※3 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版(編集:日本がんサポーティブケア学会)※4 患者さんと家族のための肺がんガイドブック2023年版 第4章 治療の概要 4-3 薬物療法 Q43(編集:日本肺癌学会)※5 日本乳癌学会 患者さんと家族のための乳がん診療ガイドライン2023年版 Q48(編集:日本肺癌学会)※6 国立がん研究センター がん情報サービス 前立腺がん 治療https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/treatment.html 2024/10/10参照※7 国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん 治療https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html 2024/10/10参照※8 国立がん研究センター がん情報サービス 免疫療法 もっと詳しくhttps://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html 2024/11/6参照※9 国立がん研究センター がん情報サービス 免疫療法https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html 2024/11/6参照※10 日本肺癌学会 患者さんと家族のための肺がんガイドブック2023年版 第4章 治療の概要 4-3 薬物療法 Q46(編集:日本肺癌学会)【監修】帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 渡邊清高 先生更新年月:2024年12月ONC46O003A