がんとつきあう(がん治療の副作用)がん治療と口腔ケア

がんの治療中は、薬物療法や放射線療法によって、口のなかの粘膜が赤く腫れたり痛んだりする口内炎や、口のなかの乾燥などの副作用がみられたりします※1。そのことが十分な食事や睡眠がとれない原因となり、体力の低下につながる場合があります※1。また、口の機能である「食べること」「話すこと」は、がん患者さんの治療生活において、その生活の質に大きく影響します※2

がんと診断され治療を受ける時には予防が大切です。治療を始める前から歯磨きとうがいを行いましょう。また、症状が現れた時には早めに適切な治療を受け、自分でも口腔ケアを行うことが大切になります※1

口腔ケアとは

口腔(口のなか)のケアは、口のなかの病気の予防や健康保持と増進、口から栄養をとるためのリハビリテーションにより、生活の質の向上をめざして行われます※3。一般的な内容には、検診、口のなかの清掃、義歯の着脱と手入れ、かむこと・食べること・飲み込むことのリハビリテーション、歯肉・ほお周りのマッサージ、食事の介護、口臭の除去、口のなかの乾燥予防などがあります※3

がん治療が口のなかの健康に及ぼす影響

がん治療に使われる抗がん剤は、細胞が増える仕組みを妨げることで、さかんに分裂をくり返すがん細胞を攻撃するお薬ですが、分裂する速度が速い正常細胞も攻撃することがあります※4,5。口のなかの粘膜の細胞は分裂速度が速く、抗がん剤の影響を受けやすいため、粘膜の炎症が生じます※5。また、抗がん剤によって骨髄抑制が生じて免疫機能が低下すると、口のなかの細菌や真菌による感染がみられることがあります※5。これらにより、口内炎が現れると考えられます※5

放射線による治療では、口やのど、耳などの頭部から首にかけての範囲に生じたがんに対する照射によって、口のなかの粘膜の細胞や、だ液を出す細胞にダメージを与えることがわかっています※1。だ液を出す細胞に障害が起こると、だ液の量が減り、口のなかが乾いてガサガサと不快になったり、食事の味が感じづらくなったりします※6。また、口のなかが乾いてしまうと、汚れがこびりつくことで口のなかの細菌が増えやすくなるため、感染を起こしやすくなり、虫歯ができやすくなります※6

このほか、がんが骨に転移した場合に骨折予防や痛み軽減の目的で使われる、骨を強くするお薬は、長く使っていると顎の骨の一部をくさらせることもあります※6。この副作用の起こる割合は1~2%程度と決して高くありませんが、口のなかの衛生状態が悪く細菌が多い場合に起きやすく、また、抜歯をして傷があるところから生じる場合があるため、口のなかの状態が悪くならないように注意が必要です※6

口腔ケアの目的

口腔ケアを行う主な目的は、大きくは以下の三つにまとめられます。

口のなかの症状を和らげる※7

口腔ケアを行うことで、口のなかの乾燥や粘膜のただれ、感染などによる口のなかの不快感や痛みを和らげることができます※7。これらの症状を和らげることで、食事を口からとることや、会話がしやすくなり、治療中の生活を快適にすることにつながります※7

食事を口からとれるようにする※8

口から食べることは、十分な栄養をとり、体の機能を維持するために重要です※8
それだけでなく、食事を味わって「おいしい」、「おなかがいっぱい」と感じることは、療養生活に前向きな気持ちをもたらします※8。また、食事はほかの人とコミュニケーションを図る機会になりますし、食べたいもの・場所・時間を選択することは自分の生活や生き方を選択し決定できているという自己効力感ももたらします※8。このように、食事を直接口からとることは、がん患者さんの生活の質に大きく影響することが明らかになっています※8

感染を防ぐ※7

口のなかにはさまざまな常在細菌が存在します※7。症状がなくても感染の原因となるような虫歯や歯周病などが存在し、口のなかの感染や全身の感染の原因となる可能性があります※7。口のなかの常在細菌は、特に、誤嚥(ごえん)性肺炎※の原因となることが多く、口のなかを衛生的に保つことで誤嚥性肺炎の発生を抑えることができます※7。感染が全身にひろがらないようにするためにも、口腔ケアをしっかり行って、衛生的な状態を保つことが重要です※7※ 本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎※9

口腔ケアは、口のなかの不快な症状を和らげて「食べる」「話す」といった機能を維持して、療養中の生活の質を保つために大切です※7。口内炎などの予防や重症化を抑えるために、できるだけがん治療の開始2週間前までには歯科を受診しておくようにしましょう※8。加えて、がん治療中も継続して口のなかを清潔で良好な環境に維持することが大切です※8。ご自分で口腔ケアを行うとともに、もし治療中に違和感や不快感が生じた場合は医療スタッフに相談しましょう。口腔ケアの方法については、「一般的な口腔ケアの方法」で紹介していますので、参考にしてみてください。

※1 国立がん研究センター がん情報サービス 口内炎・口内の乾燥 もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/support/condition/stomatitis/ld01.html 2023/4/14参照

※2 上野尚雄. がん患者の口腔ケア 第1回 がん診療になぜ口腔ケアが必要なのか. がん看護 2020; 25: 57-60.

※3 日本口腔ケア学会 日本口腔ケア学会とは~学会の趣旨
https://www.oralcare-jp.org/about01/ 2023/4/14参照

※4 国立がん研究センター がん情報サービス 薬物療法 もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html 2023/4/27参照

※5 がん患者の口腔マネージメントテキスト―看護師がお口のことで困ったら―. 編者; 上野尚雄, 山田みつぎ, 岩隈好恵, 文光堂, 2016年7月, 東京.

※6 日本歯科医師会 テーマパーク8020 がん治療と口のケア―がん治療を乗り越えるために―
https://www.jda.or.jp/park/relation/cancerandmousecare.html 2023/4/14参照

※7 国立がん研究センター がん情報サービス 「在宅療養中のがん患者さんを支える口腔ケア実践マニュアル」
https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/medical_treatment/dental/pdf/oralcavity_web.pdf 2023/4/14参照

※8 がん研究振興財団 「多職種から学ぶ:がん看護の基礎(食事を支えるケア編)」
https://www.fpcr.or.jp/data_files/view/46/mode:inline 2023/4/27参照

※9 厚生労働省 e-ヘルスネット[情報提供] 誤嚥性肺炎
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html 2023/4/20参照

【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生

更新年月:2023年10月

ONC46N008C

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