がんとつきあう(がん治療の副作用)骨髄抑制とその原因 骨髄抑制とは 骨髄抑制は、抗がん剤(細胞障害性抗がん薬や分子標的薬)、放射線療法に伴う副作用のひとつですが、どの血液成分がダメージを受けたかにより、症状や起こる副作用、対処法が異なります※1, 2, 3。 骨髄抑制によって以下の副作用が起こることがあります。 感染症 感染症は、白血球の減少によって起こる副作用です。白血球の減少は多くの抗がん剤でみられ、白血球が減少するタイミングや程度は、抗がん剤の種類や量、治療スケジュール、患者さん個人の状態などによっても異なります※3, 4。 白血球は、外部から体内へ侵入してきたウイルスや細菌を攻撃する免疫機能を担っています。抗がん剤をはじめとするがん治療により白血球が減少すると、ウイルスや細菌に対する抵抗力が弱まるため、体のあらゆるところで感染症を引き起こしやすくなります※3, 4, 5。 <症状の例> 37.5℃以上の発熱※6 悪寒、寒気※6 咳、のどの痛み※6 口内炎、歯肉痛、虫歯※6 下痢、腹痛※6 肛門痛や腫れ※6, 7 排尿時の痛み、血尿、頻尿、残尿感※6 皮膚の発疹、発赤(皮膚が赤くなること)※6 感染症が起こる部位は、口の中、肺、皮膚、尿路、腸、肛門、性器などと多岐にわたります※6。上記のような症状がみられる場合は感染症の可能性がありますので、すぐに医療スタッフに相談しましょう。 貧血 貧血は、肺から取り込んだ酸素を体全体に届ける役割を担う赤血球が減少することで起こる副作用です※8。 赤血球が減少したり、赤血球のなかで酸素を運ぶ役割のヘモグロビンの働きが低下したりすると、息切れや倦怠感、ふらつきなどの貧血に伴う症状がみられるようになります※8, 9。 赤血球の寿命は120日※2と長いため、一般的に抗がん剤(細胞障害性抗がん薬や分子標的薬)、放射線療法によってすぐに貧血が現れることはなく、治療を継続するうちに次第に症状がみられるようになります。 <症状の例> 息切れ※8 疲労感、倦怠感※8, 9 立ちくらみ、めまい※8 動悸、胸の痛み※8 頭痛※8 寒気、悪寒※9 気になる症状があれば、無理をしないで医療スタッフに伝えましょう。 出血 出血は、血小板の減少に伴って起こる副作用です。血小板は、血液を構成する血液成分のひとつで、傷をふさいだり、出血を止めたりする働きがあります※10。血小板が少なくなったり、機能が低下すると、出血しやすくなるだけでなく、血が止まりにくくなります※8, 10。 <症状の例> 内出血(皮下出血)※3 服装による締め付けや、長時間同じ姿勢でいることなどによる圧迫が原因で生じます。 口内の出血※3 歯ブラシによる歯磨きで、歯ぐきから出血することがあります。 鼻血※3 鼻をかむことで粘膜が傷つき、出血することがあります。 血便※10 排便時のいきみなどが原因で出血することがあります。 血尿※11 膀胱(ぼうこう)の炎症が原因で出血することがあります。 手足の点状出血(細かい点状の皮下出血)※10 お風呂で体を洗った時やかゆくて皮膚をかいた時などにあざができたり、出血することがあります。 血小板が減少することで、日常生活の動作のなかでも出血がみられるようになることがあります。血が止まりにくい状態が続いたり、出血が続く場合には、医療スタッフに相談しましょう。 骨髄抑制の原因 抗がん剤(細胞障害性抗がん薬や分子標的薬)による治療や放射線療法によって、骨髄がダメージを受けることがあります。例えば、細胞が分裂して増える過程に作用する抗がん剤は、同様に細胞分裂が活発な骨髄にも影響を及ぼしやすいと考えられています。これが、血液をつくる組織である骨髄の働きが抑制されてしまう原因です※2。 骨髄の働きが抑制されると、血液を構成する三つの要素である白血球・赤血球・血小板が減少します※2。これら三つの血液成分が減少することで、それぞれ感染症や貧血、出血が起こりやすくなります。自覚症状に乏しく、自分では気付かないこともあるため、骨髄抑制が起こっていないかどうかについて適切な時期に血液検査が行われます※12。 急な発熱など体調の変化があるときには、医療スタッフに相談しましょう。 ※1 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集 骨髄抑制 https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/kotsuzuiyokusei.html 2023/1/18参照 ※2 Canadian Cancer Society Low blood cell counts https://cancer.ca/en/treatments/side-effects/low-blood-cell-counts 2023/2/24参照 ※3 国立がん研究センター がん対策情報センター 「患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版」 https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/public/pdf/0_all.pdf 2023/1/18参照 ※4 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版(編集:日本乳癌学会) https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g7/q48/ 2023/1/18参照 ※5 冲中敬二. 抗がん剤治療患者における感染症対策について. 日本化学療法学会雑誌2019; 68: 132-142. ※6 国立がん研究センター 東病院 主な抗がん剤の副作用と対策 感染症について https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/pharmacy/kouganzai/supportivecare_infection.html 2023/1/18参照 ※7 杉本卓哉ら. 好中球減少症に合併した肛門周囲感染症に対する切開ドレナージ術の検討. 日臨外会誌2013; 74: 1157-1161. ※8 国立がん研究センター がん情報サービス 貧血 もっと詳しく ~がんの治療を始めた人に、始める人に~ https://ganjoho.jp/public/support/condition/anemia/ld01.html 2023/1/18参照 ※9 Canadian Cancer Society Low red blood cell count (anemia) https://cancer.ca/en/treatments/side-effects/low-red-blood-cell-count 2023/2/24参照 ※10 国立がん研究センター がん情報サービス 出血しやすい・血小板減少 もっと詳しく ~がんの治療を始めた人に、始める人に~ https://ganjoho.jp/public/support/condition/thrombocytopenia/ld01.html 2023/1/18参照 ※11 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血性膀胱炎 https://www.pmda.go.jp/files/000240110.pdf 2023/5/25参照 ※12 久保田靖子. 血液検査を読む:骨髄抑制. がん看護2011; 16: 146-147. 【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生 更新年月:2023年9月 ONC46N001C