がんの痛みを学ぼうがんの痛みを感じている方へ現在、がんやその治療による痛みを感じていらっしゃいませんか?その痛みが日常生活や仕事に影響を与えてしまっていませんか?痛みを我慢し、ひとりで抱え込んではいけません。がんによる痛みは治療によって和らげることができるので、痛みについて医療従事者に伝え、がんの治療と併せて治療をしていくことが大切ですし、このことが最新のがん治療と言っても過言ではありません。ここでは、痛みについての伝え方のコツや、少しでも日常生活を過ごしやすくするためのセルフケアについて説明していきます。医療従事者への伝え方痛みの治療は、患者さんご自身が医療従事者に伝えるところから始まります。その強さの程度や痛みが生じるパターン、痛み方などは患者さんご自身が感じられていることであるため、ご家族に伝えることも重要ですが、患者さん自身から医療従事者に訴えることが大切です。遠慮したり、ためらったりする必要はありません。以下の「痛みについて伝えるためのポイント※1」を参考にして伝えられると良いでしょう。痛みについて伝えるためのポイント※11.痛い部分はどこか?一ヵ所なのか、複数なのか? 広範囲なのか、部分的なのか? を併せて伝えます。例)お腹が痛い、背中が痛い、足が痛い、腕が痛い、胸が痛い、腰が痛い,お尻が痛い、頭が痛い、顔が痛いなど2.どのように痛いのか?痛みの性質を、いろいろな言葉で表現して伝えます。例)ズキンズキンと波打つような痛み(痛みを擬音語で表現します)ほか、キリキリ、ヒリヒリ、ガンガン、ジンジン、ビリビリ、ギクッと、ズーン、ウズウズ、ピリピリ……など※「火」や「電気」をイメージさせる痛みを訴えることもしばしばあります。例)突き刺されるような痛み(痛みの様子を表現します)ほか、締め付けられるような、割れるような、しびれるような、食い込むような、気分が悪くなるような……など3.どのくらい痛いのか?痛みの強さは、「ものさし」を使って数字で表現したり、該当する絵を選んで伝えます。例)痛みのない状態を0、我慢できないほどの痛みを10として0~10の数字で表現します。4.痛みはどのくらい続くのか?いつから、どのくらいの時間(期間)痛みがあるのかを伝えます。例)一週間前から痛みが出始めて、一日中ずっと痛い。例)突然痛みが出て、数分あるいは数十分ほどで落ち着く。5.どんな場合に痛くなるのか?どんな時に痛みが出たのか、どうすると痛みが増すのかを伝えます。例)朝起きた時や、長時間椅子に座っていると痛みが出て、ずっと続く。例)安静にしていると痛みはないが、体を動かすと痛みが出る、咳をすると痛みが出る、お腹が動くと痛みが出る。6.どんな対処で痛みが和らぐのか?あるいは、どんな時に痛みが和らぐのか?痛みがどんな対処によって和らいだのかを伝えます。例)処方してもらった、とん服薬を飲んだら20分くらいで痛みが落ち着いた。例)痛い部分を温めたら少し楽になった。例)深呼吸したら痛みが楽になった。例)安静にしていたら痛みが楽になった。例)排便あるいは排尿したら痛みが楽になった。7.痛みによってどんな影響があるのか?痛みによる日常生活への影響について伝えます。例)夜ぐっすり眠れない、夜中に何度も目が覚めてしまう。例)動くと痛みが出るので散歩や買い物に行くのを諦めた。例)何も食べたくない、食べたいものがない。痛みについて医療従事者に伝えたり、痛みの原因を探ったりするための方法として、スケールや質問票(図2)など、客観的に痛みを評価するためのツールがあります。こうしたツールを用いて医療従事者に伝える方法もあるので、伝えることに難しさを感じられている方は一度医療従事者に相談してみても良いかもしれません。図2:神経障害性疼痛のスクリーニングツールこのチェックシートは、疾患の診断に代わるものではありません。チェックの結果、問題や異常がなくても、不安や気になることがあれば必ず医療機関を受診してください。小川節郎編:神経障害性疼痛診療ガイドブック, p32, 南山堂, 2010.また、いざ診療時に伝えようと思っていても、伝えるタイミングが分からず言えなかったり、緊張してうまく言い出せなかったり、忘れてしまって十分に伝えきれなかったりすることがあります。うまく伝えられるように、日常のなかで痛みに関してメモを取っておき、診療時に活用するという方法があります。毎日日記のようにつける必要はありません。痛みがあった際、「痛みについて伝えるためのポイント※1」の①~⑦を参考に書き留めておくと良いでしょう。痛みを和らげるための工夫※1痛み止めを使ったり放射線治療などを行う以外に、患者さんご自身で痛みを和らげたり、予防したりするセルフケアの方法がいくつかあるのでご紹介します。ただし、セルフケアを行う際は必ず、実施しても問題ないか医療従事者に事前に確認するようにしましょう。温めるカイロや電気毛布、湯たんぽ、蒸しタオルなどによって痛みや不快感がある部分を温めることで、つらさが和らぐことがあります。ただし、炎症や傷がある部位や、知覚が鈍くなってしまっている部位は避けましょう。また、貼り薬を使用されている方は必ず、医療従事者に事前に相談しましょう。冷やす氷枕や保冷剤などによって痛みや不快感がある部分を冷やすことで、つらさを和らげる方法です。ただし、傷がある部位や知覚が鈍くなってしまっている部位、関節は避けましょう。姿勢・動き方の工夫痛みが起きづらい楽な姿勢を取ります。腹痛がある場合は衣服を緩め、膝を曲げて横になること(うずくまる姿勢)で、お腹の緊張が取れて楽になることがあります。背中や腰に痛みがある場合は、体をねじるような動きを避けましょう。横になる際は、「腰に枕を当てる」「膝の下にクッションを入れて脚を立てる」「横向きで少し丸まって寝転がる」などご自身が楽に感じる姿勢を探してみましょう。このほか、腹式呼吸や筋弛緩法、アロマセラピー、気分転換、マッサージ、鍼灸などによって心身をリラックスさせ、痛みを和らげる方法もあります。ご自身にとって心地よく感じられ、痛みを和らげることができる方法を見つけられると良いですね。痛みが正しく医療従事者に伝わることは、正しい治療につながります。痛みの治療を行うことで、がんそのものの治療の効果が弱まってしまうようなことはなく、むしろ、痛みがなくなり体と心のコンディションが整えられればがん治療に専念できるようにもなります。痛みを抱え込まず、家族や医療従事者に相談するなど、周囲の支援を積極的に得ていきましょう。理解してくれる誰かがそばにいてくれることはあなたにとっての支えにもなります。※1 患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド増補版(編集:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/patienta.pdf 2024/2/19参照【監修】獨協医科大学麻酔科 教授 山口重樹 先生更新年月:2024年11月ONC46O004A