“”がんの痛みを学ぼうがんによって起こりうる痛み

がん患者さんが経験する痛み。その多くは、がん自体が直接の原因となる身体的な痛みですが、がん治療を進めていく上では、手術や薬物療法、放射線治療によって痛みが起こることもあります。体のどこかに痛みがあることはつらく、不安になってしまったり、イライラしてしまったり、生活や仕事に支障を来してしまうこともあるかもしれません。身体的な痛みによって気持ちがつらくなってしまったり、社会的な活動に影響を与えてしまうこともあります。

がんの痛みと向き合うためにも、がんで生じる痛みの原因や痛みの種類について知っておくと良いでしょう。

がん直接の痛みの性質による分類

がん直接による痛みは、その性質によって、体に危険を伝える痛みである「侵害受容性疼痛(体性痛・内臓痛)」と、神経の痛みである「神経障害性疼痛」に分けられます。これらはそれぞれ、痛みの感じ方に特徴があります※1

侵害受容性疼痛である体性痛、内臓痛と神経障害性疼痛の、それぞれの特徴は次のとおりです。

体性痛

骨、筋、関節など体の構造部分への刺激(切る、刺すなど)によって生じる痛み

  • 皮膚や骨、関節、筋肉など、体の組織への刺激によって生じます。
  • 痛みの部分がはっきりしていて(指で示すことができるような)、「ズキズキ」や「ヒリヒリ」といった持続する痛みがあります。
  • 拍動に伴う痛みや、時にうずくような痛みがあります。
  • 体を動かすことによって痛みが増強します。

内臓痛

がんが内臓にある場合の痛み

  • 食道、胃、大腸など臓器の炎症やがんの浸潤・圧迫などによって生じます。
  • 痛みの部分がはっきりしておらず(手のひらで指示するような)、「深く絞られるような」「押されるような」「重い」と表現される痛みがあります。
  • 鈍く重い感じの痛みがあります。
  • 胸のむかつきや吐き気、発汗などの症状が出ることがあります。

神経障害性疼痛

痛みを伝える神経の経路が障害を受けたり圧迫されたりして生じる痛みやしびれ感

  • 普段は痛みを感じないような軽い刺激で痛みを感じてしまうことがあります。
  • 痛みが持続することによって、痛みが増強したように感じてしまうことがあります。
  • 「焼けるような」「うずくような」持続する痛みや(火をイメージさせる痛み)、「ビーンと走るような」「びりびりするような」電撃痛(電気をイメージさせる痛み)が生じることがあります。
  • 痛みがあるところに脱力(自由に動かせない)が伴うことがあります。
  • 感覚がなくなるようなしびれとは異なる、不快な感覚のしびれ感を感じることがあります。
  • しびれによって、つかんでいたものを落としそうになったり、文字がうまく書けなくなったり、といった変化が起こることがあります。

がんの痛みのパターンによる分類

がんの痛みは、その痛みの現れ方によって次のように分けられます。

持続痛

持続する一定の強さの痛み

  • 一日のうち12時間以上続く痛みです※1
  • 病状や治療の状況などによって、続く痛みの強さが変化します。

突出痛

一過性に増悪する痛み

  • 鎮痛薬を使用していて、普段の痛みは和らいでいるにもかかわらず、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛みです。
  • 痛みの発生からピークに達するまでが急で、30~60分程度持続します※1
  • 痛みが発生する場所の約8割が持続痛と同じ場所です※1

痛みの現れ方としては、

  • 強い痛みが一日中続く(持続痛)
  • 普段はほとんど痛みがないけれど、一日に何回か強い痛みがある(突出痛)
  • 普段から強い痛みがあり、一日の間に強くなったり弱くなったりする(持続痛+突出痛)があります※1

また、突出痛には、体を動かすことによって痛みが出るなど「予測できる突出痛」と、いつ生じるか予測できない、あるいは痛みを引き起こす原因がなく生じる「予測できない突出痛」があり※1、それぞれの特徴に合わせた治療が行われます。

これらのことから、正しい治療のためにも、医療従事者には、感じる痛みがどのような痛みなのか、どのようなパターンで痛みが出ているのかを伝えられると良いでしょう。

薬物療法・放射線治療の副作用・合併症

薬物療法や放射線治療の副作用や合併症によって痛みを生じることもあり、以下のような種類があります。
※副作用や合併症の症状と、その程度には個人差があり、また、お薬の種類や放射線の種類・量によっても異なります。

薬物療法による副作用

関節痛・筋肉痛※2 関節の痛みや筋肉の痛みが現れることがありますが、ほとんどは一時的です。
末梢神経障害※3 手や足、特に両方の足先に、「しびれ感・痛み・ほてり」「感覚が鈍い」などの感覚障害が起こることがあります。治療開始後すぐに症状が出る場合と長期間経ってから発症する場合とがあります。
皮膚障害※4 発疹(ざ瘡様皮疹や体幹の発疹)や爪の周りの炎症(爪囲炎)、手足にしびれや痛み、腫れなどの症状が出る手足症候群、光に過敏に反応して起こる皮膚炎(光線過敏症)などの皮膚症状が痛みを伴うことがあります。
口内炎※5 化学療法の治療開始後、数日から10日目頃に発生しやすくなります。

放射線治療による副作用・合併症

口内炎※6 主に頭から首の範囲のがんの治療の際、放射線が口の周囲に当たることで生じることがあります。放射線治療開始2週間目頃に発生しやすくなります。
咽頭・食道・胃の粘膜炎、腸炎※6 放射線を当てる部位によっては、粘膜に炎症が起き、痛みが出ることがあります。
皮膚炎※7 放射線を当てた部位の皮膚が赤くなったり、ヒリヒリ感などの痛みが出たりすることがあります。

「がんで痛みが出るのは仕方がない」と諦めたり、「治療が効いている証拠だから我慢して乗り越えよう」と我慢していませんか?

がんを患うことによって生じる痛みは、適切な治療によって和らげることができます。痛みの治療においては、痛みのある場所や痛みの性状、痛みの強さや種類などの情報が大きな助けとなります。しかし、痛みは患者さん本人にしか分かりません。ですから、我慢せずに医療従事者に相談することがとても大切です。

痛みがどのようなものなのかを医療従事者に伝えるためにも、がんの痛みについて知っておくと良いでしょう。

※1 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版(編集:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2020/pdf/pain2020.pdf 2022/7/12参照

※2 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版(編集:日本乳癌学会)
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g7/q48/ 2022/7/12参照

※3 重篤副作用疾患別対応マニュアル 末梢神経障害 平成21年5月(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c13.pdf 2022/7/12参照

※4 国立がん研究センター がん情報サービス 3.薬物療法で注意しておきたいこと
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html#side_effects 2022/7/12参照

※5 重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎 平成21年5月(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l09.pdf 2022/7/12参照

※6 国立がん研究センター がん情報サービス 「がんの冊子 がんと療養シリーズ がん治療と口内炎」
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11048828_po_203.pdf?contentNo=1&alternativeNo= 2022/7/12参照

※7 国立がん研究センター がん情報サービス 1.放射線治療を行う目的
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_02.html 2022/7/12参照

【監修】獨協医科大学麻酔科 教授 山口重樹 先生

更新年月:2022年11月

ONC46M001A