がんの痛みを学ぼうがんの痛み(がん疼痛)の治療

痛みがあることを医療従事者に伝えるという第一歩を踏み出したら、早速、痛みの治療の始まりです。がんの痛みの治療は、WHO(世界保健機関)が1986年に公表した「WHO方式がん疼痛治療法」をもとに、がんの治療と並行して行われます。これは、世界各国で用いられているもので、治療によって80%以上の患者さんの痛みが和らいだという報告もあります※1

日常生活にも大きな影響を与えてしまう痛み。我慢せずに適切な治療を受けることが大切です。

ここでは、痛みの治療法について解説していきます。

痛みの治療は、①薬物療法 ②その他の治療(放射線治療や神経ブロックなど) ③心理社会的ケアの三つに分けられます。

①と②については痛み止めのお薬での治療が主役となり、患者さんの痛みを軽減させ日常生活に支障が出ないようにすることを目指して治療が行われます。③は、心理的な支援を行う臨床(公認)心理士など心のケアを行う専門家が支援し、不安や悲しみなど心のつらさに対処していきます。

薬物療法

痛み止めには、がん以外の痛みにも一般的に使用される消炎鎮痛薬や解熱鎮痛薬と、がんなどの激しい痛みに使用される麻薬系の薬(モルヒネなどの医療用麻薬を中心とした神経系に作用して強力な鎮痛作用を発揮する薬)があります。一般的には、これらの薬を痛みの強さに合わせて、使い分けています。

痛み止めは、飲み薬を中心に治療を行っていきます。飲み薬は、患者さんご自身がほかの人の手を借りずに治療を進めていくことができ、注射薬や点滴のように都度、通院する必要もありません。決められた時間に規則正しく、患者さんひとりひとりに合ったお薬の種類と量を服用することが大切です。

また、痛み止めのお薬と併せて、鎮痛補助薬と呼ばれる、他の疾患(てんかん、うつ病など)の治療に開発された薬を特異的な痛み(神経の損傷や機能障害による痛み)に使用することもあります。

適切なお薬の量は患者さんひとりひとりによって異なるため、医師は治療によって痛みが和らいでいるのかを確認しながら調節していきます。量を変えても痛みが和らがない時には、違う種類のお薬を使用しますが、お薬の量や種類が変わることでがんが進行しているのではないかと感じたり、いずれ痛み止めが効かなくなることがあるのではないかと心配する方もいるかもしれません。

しかし、痛み止めは、がんの進行度によって選んでいるのではなく、患者さんの痛みの種類や強さに合わせて、痛みを和らげる目的で選んでいます。何よりも大切なのは、患者さんの痛みが緩和され、患者さんが快適に生活を送れることなのです。

医療用麻薬

一部の薬を除いて、麻薬系の痛み止めは医療用麻薬とよばれます。医療用とはいえ、「麻薬」という言葉にマイナスなイメージを持ち、使用することに大きな抵抗感を持ってしまう患者さんは多いのではないでしょうか(表)。

表:麻薬に対する患者さんの不安

  • ・一度使ってしまったら中毒になるかもしれない
  • ・使用する量がどんどん増えて、いつか効かなくなるのではないか
  • ・麻薬を使うだなんてもうおしまいだ
  • ・麻薬は末期の患者さんが使うものだ
  • ・よく効く分、大きな副作用があるに違いない
  • ・麻薬を使用することで、胃や、肝臓、腎臓などの内臓を悪くしてしまうのではないか

しかし、これらは大きな誤解です。

医療用麻薬は、患者さんの痛みの程度と副作用の状況を確認しながら医師が適正な量を処方しているため、依存や中毒になってしまうようなことはありません。

痛みが和らげば、麻薬の量を減らしたり中止することもできます。決して、「やめられないお薬」ではないのです。がんや病気が治った患者さんの多くが薬をやめることができています。

医療用麻薬を使用するのは末期がんであるというイメージを抱く方もいるようです。しかしながら、そのイメージは、「WHO方式がん疼痛治療法」が確立される以前、治療の現場においても麻薬に関する知識が不十分で、終末期になりようやく使用されるケースが多かったためで、現在では、がんの進行度にかかわらず使用されています※2

その他の治療

痛みの原因によっては、飲み薬での治療と並行して、放射線や神経ブロックなどお薬以外による治療が行われることがあります。

放射線治療※3,4

骨転移による骨の痛みやがんが神経を圧迫したり傷害することで発生する神経の痛みの治療に効果的で、がんの治療効果と併せて多くの患者さんで行われています。

神経ブロック※4

痛みがある場所が一部分と限られている場合、その部位だけに作用する神経ブロックという治療が用いられます。神経や神経の周りに局所麻酔薬や神経破壊薬を注射して、痛みを取り除きます。また、神経を熱凝固という手段で焼灼して、痛みを緩和する手段もあります。これらの神経ブロックは、薬物療法に抵抗する痛み、副作用により十分な量の薬が内服できない患者さんに有用な選択肢となります。

心理社会的ケア

がん患者さんは、身体的な痛みのほか、心理的、社会的、精神的な面での心の負担を感じられることでしょう。そうしたつらさは身体的な痛みにも影響を与え、また、身体的な痛みは不安や恐怖などを引き起こし心に大きな負担を与えてしまいます。

そうしたことから、心のケアを大切ながん治療の一環として、臨床(公認)心理士、心療内科医、精神腫瘍医、チャプレン(病院にいる宗教家)などがケアを行っていきます。

こうしてご紹介してきたように、がんによる痛み(がん疼痛)は治療によって緩和することができます。しかし、「身体的苦痛や精神的苦痛、社会的苦痛の緩和が十分に行われていないがん患者さんが3~4割ほどいる」というデータがあるように※5、多くの患者さんが苦痛を抱えながら過ごしているという現状があるようです。

痛みの程度や、痛みの治療の効き方には個人差があります。また、がんの進行と関係なく痛みが変化することもあるでしょう。

ひとりひとりに合った適切な治療によって、患者さんの痛みの緩和につなげていくことができます。それには、患者さんご自身が医療従事者に伝える情報がとても重要な手がかりとなります。しっかりと、医療従事者や家族にさまざまな辛さを訴えることが重要となります。

痛みが続いてしまうと体も心も疲れてしまいますし、日常生活に大きな影響を与えてしまいます。がん治療に向けて体力を維持していくためにも、痛みの治療をがん治療の一環としてきちんと行っていくことが大切です。

※1 患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド増補版(編集:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/patienta/2014/pdf2017/patienta.pdf

※2 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版(編集:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2020/pdf/pain2020.pdf

※3 放射線治療計画ガイドライン2020年版
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/guideline/jastro/2020.html

※4 がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2018年版
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2018/pdf/sedation2018.pdf

※5 がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会における議論の整理 平成28年12月(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000168743.pdf

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【監修】獨協医科大学麻酔科 教授 山口重樹 先生

作成年月:2022年5月

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