がん患者さんのお悩み相談室 ~がんと仕事~
がん治療後の復職のタイミングと準備

Q.がん治療後の仕事復帰のタイミングや、会社との調整の仕方に悩んでいます

がんの治療後は体力回復に努め、負担のない範囲で会社に状況報告を

治療後の復帰には1カ月の準備期間を

がんの治療が終わったらすぐに仕事に戻れるはず、速やかに職場復帰したい、と思う方は少なくありません。がんの治療は、がんの部位や状態によって、方法も期間も抗がん剤や分子標的薬などによる薬物治療の副作用も異なります。最近では、再発予防のために抗がん剤や分子標的薬などの薬物を投与する治療法もあります。治療のために会社をどれだけ休むことになるのか、いつ復帰できる見込みでいればよいのかは、患者さんご本人が最も知りたいことでしょう。全国の「がん診療連携拠点病院」に併設されている相談支援センターにも、初回の治療の直前・直後の患者さんから、復職のタイミングについての相談が多く寄せられるそうです。

初回の治療後には、少なからず身体の機能に何らかの変化が生じているはずです。例えば、大腸がんであれば人工肛門(ストーマ)の装着といった変化です。こうした変化に伴い起こり得るトラブルを、患者さんがしっかり理解していることが、職場復帰の大前提となります。たとえ医学的に「復帰は問題ない」と判断されたとしても、トラブルや何らかの対応が必要になる事象に備えておくことが大切だということです。変化が生じた自分の身体で、どの程度働けるのかを確認するためにも、最低でも1カ月程度の助走期間、準備期間を設けることをお勧めします。

また、復職に必要な手続きは職場ごとに異なります。会社によっては、診断書の提出に加えて、復帰前に産業医などの産業保健スタッフや上司との面談が必要な場合もあります。病気療養中の社員が復職する際の流れと、提出に必要な書類などは、早めに人事・総務部門に確認しておきましょう。休職中には、ご自身の負担のない方法、例えばメールや電話で状況を報告するなどして、できる範囲で会社との接点を保ち相談しやすい環境を作っておくと、スムーズに調整しやすくなります。

初回治療後は、体力の回復を最優先に

ウォーキングする女性

がんの診断を受け治療を行うと、多くの人の身体活動量(日常生活の場で身体を動かすこと)は、それ以前の状態と比較して、約90%低下(※)するといわれています。精神的な疲労感や、治療に伴う直接的な身体的疲労感はもとより、食事が変わったり安静に休んだりすることで、体力が低下しやすくなるのです。そこで、初回の治療後にまっさきにやっておきたいのが、リハビリです。最近では、入院治療でも「歩く」などの運動を伴うリハビリが、手術の翌日から組み込まれるケースも多くなっています。治療中に低下した体力は、リハビリで回復できます。外科的治療でも内科的治療でも、体力を必要以上に落とさないよう、リハビリはとても重要なのです。

よく、健康のために1日に1万歩を目安に歩きましょう、といいますが、そこまでの必要はありません。1日2,000~3,000歩で十分。入院中なら、1日1回、歩いて売店や外の空気を吸いに行く程度でも構いません。自宅療養中なら、10分くらい先のスーパーやコンビニエンスストアに買い物に出る、犬と近所を散歩する、とにかく家から外に出て歩くだけでいいのです。それだけでも、復職後の体力に大きな違いが出てきます。

【出典】仕事とがん治療の両立 お役立ちノート【国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院】(2024/7/31参照)

課題は、がんそのものよりも体力の回復

なぜ、リハビリの重要性を力説するかといえば、仕事に復帰した後に退職を検討する人のほとんどが、「体力に自信がない」ことを理由にするからです。体力の低下を防げば、復職後に「仕事に自信がない」と落ち込んだり、悩んだりする可能性がぐっと減るはず。日常生活を送っていれば、時間の経過とともに体力は徐々に回復しますから、がん(病気)とは切り離して考えましょう。

体力の回復を最優先に、復職前には下記の事柄に段階を踏んで取り組んでみることをお勧めします。

  • 会社に出勤する前提で、就寝・起床、活動する
  • 出勤中の時間帯に、外出する
  • 通勤電車に乗る、図書館などで一定時間を過ごすなど、模擬出勤を試す

こうしたことに取り組みながら、身体や心の疲れ具合を確認して、ご自身に無理のない勤務方法を検討していくとよいと思います。例えば復職にあたって、傷病休暇や休職中に実際に会社出勤を試みる「リハビリ出勤」にチャレンジする手もあります。休暇扱いの中で通勤・出勤を数日~1週間程度試してみることで、復帰の判断がしやすくなりますから、会社に相談してみるとよいでしょう。

誰もがいきなり元のように働けるとは限りません。体力や気持ちの回復には、ある程度の時間が必要です。体力を回復する期間中は、時短などの働き方の工夫や、時間差通勤、通勤ルートの変更など、その時の体力に応じた働き方を工夫することが、復職をスムーズにするコツ。相談支援センターでは、他の患者さんの復職に向けた工夫など参考になる話を聞けたり、復職に向けてのステップを一緒に検討したりできますので、まず相談してみましょう。厚生労働省と国立がん研究センターの研究グループが作成した、「仕事とがん治療の両立 お役立ちノート」にも、復職に向けてのステップやコツ、関連資料が紹介されていて参考になります。

まとめ:復職には準備期間を十分にとって

がんの治療後、速やかに職場に復帰するには、治療後の身体機能の変化に自分が順応することと、体力の回復がカギになります。体力を落とさないよう、治療中も必要以上に安静にせず、極力歩くことを心がけましょう。それだけで復職後の体力回復に大きな差が出ます。また、スムーズな復職のためには、職場復帰に向けての準備期間を十分にとることが大切です。会社には定期的な状況報告を入れつつ、リハビリ勤務などのお試しを通じて、自分の身体と心の声をよく聞きき、会社と本人の双方に負担がない働き方を工夫しましょう。

【監修】国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター/がん相談支援センター
副センター長 坂本はと恵氏

更新年月:2024年11月

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