乳がんを学ぶ進行/転移・再発乳がんの治療

局所進行乳がんの治療

局所進行とは

局所進行乳がんとは、がんが乳房表面の皮膚や胸壁に及んでいる場合や、炎症性乳がん※の場合、鎖骨上リンパ節にまで転移が及んでいる場合であり、病期はⅢB、ⅢC期が当てはまります。

※ まれな乳がんの1つで、通常、しこりはみられないものの、腫瘍のある乳房の皮膚が赤くむくむ、熱感が伴うといった症状がみられます。

局所進行乳がんの治療の流れ

局所進行乳がんは、体のどこかに微小転移(目には見えない小さな転移)を伴う可能性が高いため、主に薬物療法を行います。薬物療法を行って乳房のしこりや腫れていたリンパ節が縮小した場合には、放射線療法や手術などの追加を検討します。

  • 化学療法
  • ホルモン療法
  • 分子標的薬による抗HER2療法
  • その他の分子標的薬による治療
※1

薬物療法※2

ホルモン受容体陽性の場合は、ホルモン療法を行います。HER2陽性の場合は、抗HER2薬と抗がん薬を併用します。トリプルネガティブの場合は、術前もしくは術後に抗がん薬治療を行います。最近では、免疫チェックポイント阻害薬を術前から併用することもあります。

手術・放射線療法※3

まずは、手術できるようにするために薬物療法を先に行います。薬物療法を行った後に手術できるようになった場合には、手術や放射線療法を行うことを検討します。

転移・再発乳がんの治療

転移・再発とは

「再発」とは、手術や薬物療法などの治療により目に見える大きさのがんがなくなった後、がんが再び出現してくることをいいます。乳がんの場合は、手術後2、3年もしくは5年前後くらいに起こることが多いものの、10年から20年を経過してから再発することもあります※4。

手術をした側の乳房や胸壁、その周囲の皮膚やリンパ節にがんが再発することを「局所再発」といいます。

一方、「転移」とは、がん細胞が元あった場所から血液やリンパ液を介して遠隔臓器に運ばれ、そこでがんが出現することをいい、「遠隔転移」とも呼ばれます。乳がんで遠隔転移が認められた場合の病期はⅣ期と診断されます。

肺がんの患者数 主な部位別がん死亡率の年次推移 男性

肺がんの患者数 主な部位別がん死亡率の年次推移 女性

転移・再発とその症状

乳がんの局所再発では、皮膚の赤みや皮下のしこりとして自覚されることがあります。

一方、乳がんの遠隔転移は骨、肺、肝臓、脳などに起こることが多く、特定の場所が常に痛く、咳がおさまらないといった症状が出る場合もありますが、まったく症状が出ない場合もあります。

転移・再発乳がんの治療の流れ

局所再発と遠隔転移の大まかな治療の流れを以下に示します。

図内の各項目をクリックすると、詳細な説明へジャンプします。

局所再発の治療※5

局所再発の場合は、根治を目指して治療します。

乳房温存手術で残した乳房に再発した場合は、乳房全切除術を行います。乳房全切除術後に胸壁とその周りだけに再発した場合は、切除可能であれば手術を行い、以前に同じ場所に放射線療法を受けたことがなければ、術後に放射線療法を行います。また、術後に薬物療法を行うこともあります。しかし、再発までの期間が短い場合などは、がんの悪性度が高く、がん細胞が全身に広がっている可能性があるため、先に薬物療法を行い、効果がみられれば手術や放射線療法を検討します。

また、最初に腋窩リンパ節郭清やセンチネルリンパ節生検をした側の腋窩リンパ節に再発がみられた場合は、同時に肺などの他の部位に再発がなければ、再度、腋窩の手術を勧めます。

遠隔転移の治療※5

遠隔転移が認められた場合は、目に見えないがん細胞が他にも潜んでいる可能性があるため、体全体に効果が期待できる薬物療法(化学療法、ホルモン療法、ホルモン療法と分子標的薬の併用、抗HER2療法)を行うことが基本であり、通常、手術は行いません。薬物療法は、1つの治療法を行い、効果があるかぎりその治療法を続け、効果がなくなってきたら別の治療法に変更します。副作用によって日常生活に支障がある場合には我慢せずに、薬の減量や休薬、治療薬の変更を主治医に相談しましょう。

遠隔転移のある乳がんでは、がんを完全に治すことは困難なため、がんの進行を抑えたり症状を和らげたりしてQOL(生活の質)を保ちながら、がんと長く付き合っていくことを目標として、薬物療法を中心とした治療を行っていきます。

また、骨、肺、脳などの臓器に転移したがんに対しては、それぞれに特異的な治療を乳がんの治療と組み合わせて行うことがあります(下表)。

部位治療
骨骨の分解を抑制するビスホスホネート製剤や分子標的薬の使用を検討する。
痛みの強い部位がある場合は、痛みを和らげるために、放射線療法を行うこともある。
肺肺転移があり胸水が溜まっている場合は、穿刺をして胸水を除去する。
脳主に脳への放射線療法を検討する。
病巣の数などによって、脳全体に放射線を照射する全脳照射あるいは病巣のみに放射線を照射する定位放射線照射を行う。定位放射線照射の装置には、ガンマナイフ、サイバーナイフなどさまざまな種類がある。

遠隔転移の化学療法※6

肺などに転移したがんは「肺がん」ではなく乳がんの「肺転移」であり、乳がんの性質をもっていることから、乳がんに効果のある抗がん剤を使います。

病状が進行したり、副作用によりQOLが低下する場合などには、他の抗がん剤へ変更したり、抗がん剤の中止を検討します。

また、がん細胞に栄養や酸素を運ぶための新しい血管がつくられるのに関わる因子(血管内皮増殖因子:VEGF)に働きかけてがん細胞の増殖を抑える「血管新生阻害薬」を、抗がん剤と併用することもあります。

遠隔転移のホルモン療法※6

ホルモン療法はホルモン受容体陽性の患者さんに行います。閉経前の場合は、LH-RHアゴニスト製剤と抗エストロゲン薬を併用します。
一方、閉経後の場合は、抗エストロゲン薬またはアロマターゼ阻害薬を使います。
ホルモン療法にCDK4/6阻害薬を併用することによって、がんの進行をより長く抑えることが明らかになっています※7,8。

また、がん細胞の増殖に関わるmTORタンパクの働きを阻害する「mTOR阻害薬」を、アロマターゼ阻害薬と併用するとがんの進行を遅らせます。

遠隔転移の治療では、術後に行ったホルモン療法の治療期間やその効果、転移部位などを考慮しながら、どの薬剤を使用するかを決めていきます。

ホルモン剤や上記の分子標的薬を使用して効果がみられなくなった場合には、抗がん剤による化学療法に変更します。

遠隔転移の抗HER2療法※9

HER2陽性の患者さんに対しては、抗HER2療法を行います。ただし、ホルモン受容体も陽性の場合は、ホルモン療法を追加することもあります。

抗HER2療法で使う薬は数種類あり、それらを組み合わせて併用したり、抗がん剤と併用したり、単独で使用したりします。

その中でも、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体は抗がん剤と併用することが一般的ですが、単独で使うこともあります。また、他の抗HER2ヒト化モノクローナル抗体と併用することもあります。

抗HER2ヒト化モノクローナル抗体と抗がん剤が1つになった薬を用いることができます。

緩和治療とアドバンスケアプランニング

転移による症状や心理的不安を緩和する緩和治療を早期から行うことによって、生活の質や生存率が改善することも明らかになっています※10。また、ご自分の将来の治療やケアのゴールや価値観を患者・家族(大切な人)や医療者と一緒に議論し、共有するアドバンスケアプランニング(人生会議)の重要性も高まってきています。

【出典】

※1 日本乳癌学会編: 乳腺腫瘍学 第5版 金原出版: 220-223, 2025より作成

※2 日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 初期治療について-初期治療としての薬物療法 Q29 金原出版: 113-115, 2023

※3 日本乳学会編: 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 治療を受けるにあたって Q15 金原出版: 60-63, 2023

※4 日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 転移・再発の治療について Q40 金原出版: 142-143, 2023

※5 日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 転移・再発の治療について Q41 金原出版: 144-146, 2023

※6 医療情報科学研究所編: 病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科 第4版 メディックメディア: 300-301, 2021

※7 Finn RS, et al.: N Engl J Med 2016; 375: 1925-1936.

※8 Cristofanilli M, et al.: Lancet Oncol 2016; 17: 425-439.

※9 日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 転移・再発の治療について Q42 金原出版: 147-152, 2023

※10 Zanghelini F, et al.: J Palliat Care Med 2018; 8: 343.

【監修】相良病院 相良安昭 先生

更新年月:2026年9月

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