乳がんの検査と診断診断
病期(ステージ)分類
乳がんの進行度合いを示す指標として「病期(ステージ)分類」があります。
病期は以下の3つの要素を総合的に判断して決められ、0期、Ⅰ期、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類されます。
①しこりの大きさがどれ位になっているのか
②周囲のリンパ節(わきの下、胸骨の内側、鎖骨上など)にどれくらい転移しているのか
③乳房から離れた遠くの臓器に転移しているかどうか
これらの病期は、治療方針を決定する際の重要な要素の1つになります。また、病期とがん細胞の性質を調べて、手術や薬物療法などの治療方針が決定されます。
乳がんの病期分類
※表を左右にフリックしてご確認頂けます。
リンパ節への転移 | しこりの大きさ | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
しこりを認めない | 2cm以下 | 2~5cm | 5cmを 超える |
大きさを問わない あるいは 炎症性 乳がん※1 |
||
遠くの 臓器への 転移なし |
転移なし | ― | Ⅰ | ⅡA | ⅡB | ⅢB |
わきの下のリンパ節に転移あり(リンパ節は動く) | ⅡA | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
わきの下のリンパ節に転移あり(リンパ節周りの組織に固定されている) あるいは胸骨の近傍のリンパ節に転移あり |
ⅢA | ⅢA | ⅢA | ⅢA | ⅢB | |
わきの下と胸骨の近傍のリンパ節に転移あり あるいは鎖骨の上下のリンパ節に転移あり |
ⅢC | ⅢC | ⅢC | ⅢC | ⅢC | |
遠くの 臓器への 転移あり |
― | Ⅳ |
0期:非浸潤がん
※1 まれな乳がんの1つで、通常、しこりはみられないものの、腫瘍のある乳房の皮膚が赤くむくむ、熱感が伴うといった症状がみられます。
【出典】日本乳癌学会編: 臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版 金原出版: 6, 2018より引用・作成
サブタイプ分類
サブタイプ分類は、がん細胞が持つ遺伝子の性質でがんを分類する考え方です。本来は遺伝子検査の結果によってわかるものですが、すべての患者さんに遺伝子の検査を行うのは大変ですので、遺伝子検査の代わりに、手術や針生検などで採取した乳がんの組織を詳細に調べることで、どのタイプのがんか便宜的に分類します。
乳がんは、ホルモン受容体、HER2、がん細胞の増殖活性(Ki67値)という3つの要素によって、サブタイプに分類されます。
3つの要素
①[ホルモン受容体が陽性か陰性か] ER(エストロゲン受容体)もしくはPgR(プロゲステロン受容体)と呼ばれる女性ホルモンが結びつく受容体が陽性か陰性か
②[HER2が陽性か陰性か] HER2とよばれるタンパクが陽性か陰性か
③[Ki67値が高いか低いか] がん細胞の増殖活性(がん細胞が増えようとする力)の程度を示すKi67値が高いか低いか
※表を左右にフリックしてご確認頂けます。
サブタイプ分類 | ホルモン受容体 | HER2 | Ki67 | |
---|---|---|---|---|
ER | PgR | |||
ルミナルA型 | 陽性 | 陽性 | 陰性 | 低 |
ルミナルB型 (HER2陽性) |
陽性 | 陽性あるいは陰性 | 陽性 | 低~高 |
ルミナルB型 (HER2陰性) |
陽性 | 弱陽性あるいは陰性 | 陰性 | 高 |
HER2型 | 陰性 | 陰性 | 陽性 | ― |
トリプルネガティブ | 陰性 | 陰性 | 陰性 | ― |
【出典】Goldhirsch, A. et al.: Ann Oncol 24(9), 2211, 2013より改変
乳がんに対して薬物療法を行う際は、このサブタイプに適した薬剤が選択されます。治療後の経過の予測にもサプタイプを参考にします。
乳がんの70~80%はホルモン受容体が陽性のがんです※。ホルモン受容体が陽性ということは、女性ホルモンに反応してがんが増殖するということであり、女性ホルモンを抑制するホルモン療法が適応になります。さらに、がん細胞が増殖するスピードを示すKi67の値やがん細胞が通常の細胞からどのくらい違うかによって、ルミナルAとルミナルBという種類に分かれます。ルミナルAは予後が比較的良好でホルモン療法単独での効果が期待され、ルミナルBではホルモン療法に加え化学療法を行うことも考えたほうがよいタイプです。
HER2タンパクもしくは遺伝子が陽性の浸潤がんは、そうでないものに比べて転移・再発の危険性が高いことが知られていますが、HER2タンパクに対する薬である抗HER2治療薬の効果が期待できます。
2つのホルモン受容体とHER2のすべてが陰性のトリプルネガティブは、転移、再発の危険性が高いことが知られています。ホルモン療法や抗HER2療法の効果は期待できず、化学療法の適応となります。ただし、実際の治療方針はサブタイプ以外のさまざまな情報を組み合わせて決定されます。
※【出典】日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がんガイドライン 2019年版 金原出版: 118, 2019
【監修】筑波大学 医学医療系 乳腺・甲状腺・内分泌外科 准教授 坂東裕子 先生
更新年月:2021年4月