急性骨髄性白血病(AML)を学ぶ造血幹細胞移植

造血幹細胞移植とは?

造血幹細胞移植とは、正常な血液細胞をつくることができなくなった患者さんに、骨髄や末梢血、さい帯血(へその緒の血液)※1から採取した造血幹細胞(血液の元になる細胞)を移植する治療です。患者さん本人の造血幹細胞を移植する「自家移植」と、提供者(ドナー)の造血幹細胞を移植する「同種移植」があり1)、急性骨髄性白血病(AML)では同種移植が一般的です。

造血幹細胞移植は、以下のような場合に考慮されます※2,2)

  • 染色体や遺伝子異常の特徴などから、予後のリスク(再発の可能性)が中程度〜不良と考えられる場合
  • 寛解導入療法で完全寛解が得られなかった患者さんで、かつ移植が適切と考えられる場合
  • 再発した患者さんで、かつ移植が適切と考えられる場合

※1:さい帯血には造血幹細胞がたくさん含まれており、さい帯血を移植することで、血液をつくる力を回復することができます。さい帯血は出産時に妊婦さんから提供され、さい帯血バンクで保管されます3)
※2:移植は身体的な負担が大きいため、これまでは50〜55歳ぐらいまでの比較的若い患者さんが対象とされていましたが、近年は移植の方法や前処置(移植前に行う化学療法)の種類が増え、対象患者さんの幅も広がっています4)

同種移植

血液型にA型、B型などの「ABO型」があるように、白血球をはじめとする全身の細胞にも「HLA型」と呼ばれる型があります5)。同種移植では、このHLA型が適合した提供者(ドナー)から造血幹細胞を採取し、患者さんに移植します。

まず、通常より強力な治療(化学療法や放射線照射)で患者さんの体内の白血病細胞を徹底的に減らしておきます。その後、HLA型が適合したドナーの造血幹細胞を点滴で体内に入れて、体内の正常な造血幹細胞を増やします。ドナーは、きょうだいなど血縁者の中にHLA型が合う人がいなければ、骨髄バンクに登録された非血縁者の中からHLA型が合う人を探します。

同種移植では、移植前の強力な治療によって患者さんの免疫機能はなくなっていますが、ドナーから移植された造血幹細胞には免疫機能があるため、患者さんの体内にわずかに残っている白血病細胞を攻撃し、再発を少なくすることが期待されます1)

移植片対宿主病(GVHD)と移植片対白血病(GVL)効果

同種移植では、造血幹細胞にまぎれて移植されたドナーのリンパ球が、白血病とは関係のない正常な組織を外敵(非自己)とみなして攻撃してしまうことがあります。これを「移植片対宿主病(GVHD)」といいます1)

GVHDは起こる時期によって、急性GVHDと慢性GVHDの2つに大別されます1,6, 7)

  • 急性GVHD:移植後早期(多くの場合は100日以内)に症状が起こります。皮疹、白目や皮膚が黄色くなる黄疸おうだん、下痢が特徴的な症状です。
  • 慢性GVHD:移植してからかなりの時間が経過してから起こります。皮膚が硬くなるなどの皮膚症状や爪の変化、脱毛、口の中の炎症のほか、目や肺などに症状があらわれることもあります。
図:急性GVHD(出典1)より作図)

GVHDが発症した場合は、ステロイドや免疫抑制剤を用いて治療します6,7)。症状が起きた部位によっては塗り薬や目薬などが用いられることもあります。重症の場合は入院が必要になることもあります6)

一方で、軽症の場合は経過観察することもあります6)。これまでの研究から、軽症のGVHDが起こった患者さんでは、白血病の再発が減ったことが知られています。これは、ドナーのリンパ球が体内に残った白血病細胞を攻撃するためで、「移植片対白血病(GVL)効果」と呼ばれています。
このように、GVHDには悪い面だけでなくよい面もあるため、重症化させずにバランスよく管理することが重要となります1,6)

造血幹細胞移植と妊孕にんよう性について8)

血液がんの治療では、男性、女性ともに治療後に不妊になる場合があります。造血幹細胞移植においても、移植の前処置として行われる放射線照射や抗がん剤投与が不妊の原因になり得ることが知られています。
治療による不妊の可能性や、妊孕性(妊娠しやすさ)がどの程度まで回復するかは、前処置の内容や患者さんの年齢などによっても異なります。また、治療前に精子や卵子を冷凍保存する方法もあります。妊娠を希望される患者さんは、事前に担当医に相談してください。

【参考になるサイト】
日本造血・免疫細胞療法学会:患者さんの情報「6. 移植の実際-治療の準備- 6-4 妊孕性の温存」
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=14

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【出典】

1) 医療情報科学研究所編:病気がみえるvol.5 血液 第3版.メディックメディア.232-240, 2023

2) 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版.金原出版:14-16, 35-42, 2023

3) 日本赤十字社:造血幹細胞移植情報サービス さい帯血バンクについて
https://www.bs.jrc.or.jp/bmdc/m0_01_02_qa.html (2024/7/26参照)

4) 日本造血・免疫細胞療法学会編:造血細胞移植ガイドライン 急性骨髄性白血病(成人)(第3版):1, 2019
https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/03_01_aml03.pdf (2024/7/26参照)

5) 日本赤十字社:造血幹細胞移植情報サービス HLAとは?
https://www.bs.jrc.or.jp/bmdc/medicalpersonnel/m5_05_02_hla.html (2024/7/26参照)

6) 国立がん研究センター:がん情報サービス 造血幹細胞移植 移植の際の副作用・合併症
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct03.html (2024/7/26参照)

7) 日本造血・免疫細胞療法学会ガイドライン委員会編:造血細胞移植ガイドラインGVHD(第5版).日本造血・免疫細胞療法学会:2-9, 22-32, 2022
https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_02_gvhd_ver05.1.pdf (2024/7/26参照)

8)日本造血・免疫細胞療法学会:患者さんの情報「6. 移植の実際-治療の準備- 6.4 妊孕性の温存」
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=14 (2024/7/26参照)
同「11. 移植の実際-晩期毒性- 11.8 不妊」
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=44 (2024/7/26参照)

【監修】 金沢大学医学部血液内科 教授 宮本 敏浩 先生

更新年月:2024年9月

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