乳がんと生活

乳がんは早期発見で適切な治療を受けることで治癒が期待できるがんです※1。しかし、5年後や10年後、20年後に再発することもあり※2、長期にわたって経過観察を行っていきます。病気と長く付き合っていくために、治療や検査と、仕事や生活のバランスを取ることが大切です。心身への負担を軽減する生活の工夫をしながら、上手に乳がんと向き合っていきましょう。

※1【出典】日本医師会:乳がんとは?
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/breast/what/ (2022年7月5日現在)

※2【出典】日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がんガイドライン 2019年版 金原出版: 144, 2019

食事

乳がんの再発リスクを高める要因として、肥満が知られています※1。できるだけ栄養バランスのよい適切なカロリーの食事を取りましょう。

また、ホルモン療法などの薬の影響で食欲が増進され、体重増加がみられることもあります※2。肥満は再発リスクを高めるだけでなく、リンパ浮腫のリスクも高くなります※3。乳がんの術後の副作用としてよく知られるリンパ浮腫は、体重を減らし、身体への負荷を少なくすることで改善することもあります。

栄養バランスを考えながらも、過度に心配しすぎずに、楽しく食事を行うことがなによりです。

※1【出典】日本乳癌学会編: 患者さんのための乳がんガイドライン 2019年版 金原出版: 198, 2019

※2【出典】村上美華. ほか.: 日がん看会誌 31, 149, 2017

※3【出典】日本リンパ浮腫学会編: リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版 金原出版: 48, 2018

睡眠

質の高い睡眠は、乳がんという病気と向き合う上で、とても大切です。朝の光を浴びて体内時計を整える、入浴は寝る2時間前を目安にして、ぬるめのお風呂でリラックスする、夕飯は早めに済ませる、夜遅くまでパソコンやスマートフォンを使用しない、寝室の照明は暗めにするなど、よい睡眠がとれる環境を整えましょう。それでも、病気への不安や治療の影響から、眠れない、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚めるなど睡眠障害に悩まされることがあれば、無理をせずに医療スタッフに相談しましょう。

衣類(下着など)

乳がんの治療では、乳房の全摘出や部分切除といった手術により、見た目の変化を伴うことがあります。精神的なダメージがあるだけでなく、身体の重心が傾き、肩こりや頭痛などの身体的な苦痛を生じることもあります。

心身へのダメージを和らげるために、術後は過度に締めつけないこと、放射線治療中の皮膚の変化への対応など、適宜医療者と相談しながら、快適に過ごせるようにしましょう。手術後は、補正用のパッドや適切な下着を着用することで、見た目や姿勢を整えることができます。

運動

手術後の肩関節の運動障害や筋力低下、リンパ浮腫を予防するためにも、術後、早い時期から少しずつ腕の運動をしていくことが重要です。洋服を着る、顔を洗うなどの日常の動作もよいリハビリテーションになります。

術後のリハビリテーションに加え、退院後もストレッチ運動を行うことで肩こりやしびれなどの軽減・予防ができます。

また、ホルモン療法に伴う体重増加を防いだり、気分転換したりする意味でも、ウオーキングや水泳など全身を使った運動がオススメです。無理をせず、適度な範囲で行いましょう。リンパ浮腫がある場合には、主治医と相談の上、適切な運動を行います。

かつら(ウィッグ)

抗がん剤(化学療法)の副作用として脱毛を生じることがあります。見た目に影響することから、精神的ダメージも大きい脱毛ですが、かつら(ウィッグ)を使用することで、見た目をカバーし、心の痛みを軽減することができます。予想される脱毛を考慮して、治療の前から準備をしておくのもよいでしょう。2015年4月に経済産業省が「医療用ウィッグJIS(日本工業規格)」を制定し、ウィッグ本体と付属のネットを対象に、「性能、品質、安全性」についての基準が示されています。

メーク(お化粧)

抗がん剤などによる薬物治療の副作用としての脱毛は頭髪だけでなく、眉毛やまつ毛にも生じることがあります。こんなときはメークが大きな役割を果たしてくれます。眉毛は、ブラウン系のパウダータイプで描くと自然に仕上がります。まつ毛はペンシルタイプかパウダータイプのアイライナーでラインを描き、綿棒でぼかします。

また、肌の保湿も大切です。化学療法中は、日焼け止めクリームや帽子や日傘などにより、日焼け対策もしましょう。肌のくすみや変色、くまやシミを生じることもあります。これらもコントロールカラー(化粧下地)やファンデーション、チークなどを使ってメーキャップすることで、明るい肌を演出することができます。メークには、気持ちも明るくしてくれる力があります。

【監修】筑波大学 医学医療系 乳腺・甲状腺・内分泌外科 准教授 坂東裕子 先生

更新年月:2022年11月

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