急性リンパ性白血病(ALL)を学ぶ成人ALLの主な治療法

※このページでは、成人ALLの主な治療法について紹介しています。小児ALLの主な治療法についてはこちらをご覧ください。

1. フィラデルフィア(Ph)染色体がない場合(Ph陰性)

①寛解導入療法1)

  • 若年~40歳ぐらいまでの場合:一般に、小児と同じ複数の抗がん剤を用いた強力な化学療法(小児型治療)が行われます。
  • 40~64歳の場合:成人用の複数の抗がん剤を用いた化学療法が行われます。小児型治療を行う場合は、薬剤の量を減らすなど、治療の強度を落とすこともあります。
  • 65歳以上の場合:成人用の複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が行われますが、年齢や全身の状態、ALL以外の病気の有無など、患者さんの状態に合わせて薬剤の種類や量、組み合わせなどを調節します。患者さんの状態によってはステロイドを主体とした治療が行われることもあります。

②寛解に到達した後の治療

  • 地固め療法として、複数の抗がん剤による化学療法を行います1)
  • 地固め療法の後は、維持療法と呼ばれる薬物療法を、通院しながら数年にわたって続けます。染色体異常や遺伝子異常などの特徴から予後が悪いと考えられる場合や、初期治療(寛解導入療法)の効果が十分でなかった場合には、造血幹細胞移植が選択されることもあります1)。なお、造血幹細胞移植は身体的な負担が大きいため、通常は16歳から64歳までの患者さんが対象となります※, 2)

※65歳以上の患者さんに関しては、全身の状態や移植の前に行う化学療法の内容などを慎重に考慮し、移植が適切かどうか判断されます。

③寛解に到達しなかった場合、再発した場合1)

  • 寛解を目指して、複数の抗がん剤を用いた化学療法を行います。通常、初回に行った治療と異なる抗がん剤が用いられますが、再発までに数年経過している場合は、初回と同じ薬剤を用いることもあります。
  • 白血病細胞の表面に特定の蛋白がみられる場合は、「抗体医薬品」と呼ばれる分子標的薬を用いた治療が行われることがあります。また、25歳以下の患者さんでは、「CAR-Tカーティー療法」という細胞療法が行われることもあります。

2. フィラデルフィア(Ph)染色体がある場合(Ph陽性)1)

フィラデルフィア染色体がある場合(Ph陽性)は、「チロシンキナーゼ阻害薬」という分子標的薬が治療の主体となります。チロシンキナーゼ阻害薬は飲み薬で、“TKI(ティーケーアイ)”という略称で呼ばれることもあります。

①寛解導入療法

  • 64歳ぐらいまでの場合:チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法を併用します。
  • 65歳以上の場合:一般に、TKIとステロイドを併用した治療が行われます。患者さんの状態によっては、さらに複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法も併用されます。

②寛解に到達した後の治療

  • 地固め療法に続いて、TKIを含む維持療法、または造血幹細胞移植を行います。なお、造血幹細胞移植は身体的な負担が大きいため、高齢の患者さんでは年齢や合併症、移植の提供者(ドナー)などの点から慎重に判断されます2)
  • 造血幹細胞移植を行わない場合、維持療法は最初の治療開始から5年以上続けることがよいと考えられています。

③寛解に到達しなかった場合、再発した場合

  • これまでに使用したTKIとは別の種類のTKIを使用し、寛解を目指します。

3. 中枢神経系(脳・脊髄)への浸潤の予防

白血病細胞が脳や脊髄などの中枢神経系に入り込むと(浸潤)、激しい頭痛や意識障害などの症状を引き起こすことがあります。そこで、中枢神経系への浸潤を予防するため、腰の部分の背骨に針を刺し、抗がん剤などの薬剤を直接注射する「髄腔ずいくう内注射(髄注ずいちゅう)」や、点滴による投与が行われます。また、中枢神経系の浸潤のリスクが高い場合は、頭部への放射線照射が追加されることもあります1,3)。 
通常、成人では地固め療法と同時期に行われます3)

【出典】

1) 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版 金原出版:69-76, 79-80, 83-88, 91-92, 95-96, 2023

2) 日本造血・免疫細胞療法学会編:造血細胞移植ガイドライン 急性リンパ性白血病(成人)(第3版):1, 19-20, 2020年9月

3) 宮崎仁:もっと知りたい白血病治療 患者・家族・ケアにかかわる人のために 第2版 医学書院:48-49, 2019

【監修】金沢大学医学部血液内科 教授 宮本 敏浩 先生

更新年月:2024年9月

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