肺がんの治療と副作用外科療法(手術)と合併症

外科療法

肺がんの手術は、肺にできたがんを完全に取り除くこと(根治)を目的に行われます。肺の機能がすでに低下している方では、手術のあと、痰を出しにくくなることで肺炎を起こしたり、息切れが強くなったり、寝たきりになる危険性があります。そのため、肺の機能低下が著しい、心臓や肝臓の機能が低下している、重篤な合併症を起こす可能性が高いといった場合には、手術以外の方法を検討します。

肺は大きく右肺うはい左肺さはいに分かれていますが、右肺はさらに3つ(上葉じょうよう中葉ちゅうよう下葉かよう)、左肺は2つ(上葉、下葉)の肺葉はいように分かれています。

通常は、がんが含まれている肺葉の切除(肺葉切除)を行いますが、肺がんの広がりや患者さんの状態によっては、大きく切除したり、肺葉の一部のみを切除したりすることもあります(縮小手術)※1

外科療法の合併症※1

肺がんの手術では全身麻酔により行われ、また手術する側の肺をしぼませたりするなど体に大きな負担をかけるため、手術後は痰が増え、溜まりやすくなってしまいます。このように痰をうまく出すことができない状態でいると、肺炎になるリスクが高まります。それを避けるためにも、喫煙者は手術前、必ず禁煙をするように心掛けてください。また、痰を出しやすい腹式呼吸を訓練しておくことや、心肺機能を低下させないために運動を習慣づけておくことも大切です。

 

肺がんの手術後にみられる主な合併症(術後合併症)

以下に解説している合併症が発現した場合、あるいは下記以外でも気になる症状があらわれた場合には、医師に相談してください。

救急の対応が必要なもの

その他 発現することのある合併症

救急の対応が必要なもの

 

肺炎※2

痰の詰まりが原因で「肺胞」が炎症を起こす、いわゆる「肺炎」と、肺が壊れることが原因で肺胞のまわりにある「間質」が炎症を起こす「間質性肺炎」があります。肺炎の症状としては、発熱、黄色の痰、咳などで、通常、手術後4~5日目頃に発症します。手術直後の発熱はよくみられることですが、長く続く場合は、肺炎を疑ったほうがよいでしょう。特に、喫煙者はもともと肺機能が低下していることが多いので、間質性肺炎の合併リスクが高くなります。

 

気管支瘻※2

肺切除は気管支を切断して行います。切断した気管支は縫い合わせて空気が漏れないようにしますが、まれに穴が開いて空気が漏れてしまい、発熱したり、胸水が溜まったりすることがあります。早急な対応をしなければ、細菌に感染して、胸腔内に膿が溜まってしまうことがあります(膿胸)。膿胸になると、治療が長期になったり、再手術が必要になったりする場合もあります。

 

肺塞栓※2

頻度はまれですが、合併すると命にかかわることがあります。突然、呼吸困難などが起こります。手術中あるいは手術後にベッドの中で動かないでいると血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。その血栓が肺動脈に詰まることが原因となります。動けるようになったら、できる限り早く離床して体を動かすようにすることが、予防につながります。

 

心筋梗塞・脳梗塞※2

動脈硬化のある人は、手術中あるいは手術後にベッドの中で長時間動かないでいると血栓ができやすくなります。その血栓が冠動脈に詰まると心筋梗塞に、脳血管に詰まると脳梗塞になります。

 

乳び胸※2

「乳び」は、食事として摂取した脂肪が十分に分解されずリンパ液に混じって白濁して見えるものです。胸管に傷がつき、乳びが漏れ出して胸腔内に溜まるのが「乳び胸」です。乳びの量が多い場合は手術が必要となる場合があります。

その他 発現することのある合併症

 

不整脈※2

多くは手術後2~3日目ころに発症する、最も多い合併症です。動悸、立ちくらみ、冷や汗などの自覚症状があります。心臓に由来する神経の枝や、心臓から肺につながる血管が切れたり、心膜(心臓を包む膜)が開いてしまったりすることで起こることがあります。通常は、時間の経過とともに症状はおさまってきますし、お薬で症状を抑えることができます。

 

手術後の出血※2

多くは肋間動脈から起こります。頻度は高くありませんが、1時間に100mL以上の出血が2時間以上続く場合には、再手術が必要となる場合があります。

 

声のかすれ(嗄声)※2

左の肺を手術したときに、特に起こりやすい合併症です。反回神経(声帯をコントロールしている神経)の麻痺が原因となります。多くは自然に軽快します。

 

無気肺※2

気管支内に痰が詰まることで起こります。肺への空気の流れが悪くなるので、長く続くと肺炎を引き起こすことがあります。痰の排泄をきちんとするようにすることが重要です。

 

肺瘻※2

手術後に、肺から空気が漏れるためにおきます。膿胸を引き起こす場合もありますが、通常、漏れている部分は自然とふさがりますので、1週間程度で治ります。

※1 西日本がん研究機構(WJOG)編: 患者さんのためのガイドブック よくわかる肺がんQ&A, 金原出版: 52-55, 2014

※2 坪井正博: よくわかるがん治療 肺がん 最先端治療と再発・転移を防ぐ日常生活の工夫, 主婦の友社: 95-96, 2020

【監修】近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授 中川和彦 先生

更新年月:2022年11月

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