多発性骨髄腫(MM)を学ぶ主な症状多発性骨髄腫は、初期には症状が出ないことも多くあります。しかし、病気が進行するとさまざまな症状があらわれるようになります。多発性骨髄腫の代表的な4つの症状を、それぞれの英語の頭文字をとって「CRAB(クラブ)症状」といいます(図)1,2)。CRAB症状には、高カルシウム血症(Calcium level increase)、腎臓の障害(Renal dysfunction)、貧血(Anemia)、骨の破壊(Bone lesions)があります。このうち、最も多くみられるのが骨の破壊による症状です1,2)。図:CRAB症状[出典1-3より作図]骨の破壊、高カルシウム血症骨の破壊人間の骨は、骨を溶かす「破骨(はこつ)細胞」と骨をつくる「骨芽(こつが)細胞」がバランスよく働くことで、少しずつ新しい骨に生まれ変わっています。しかし、骨髄腫細胞が骨髄内で増えると、破骨細胞が刺激され、骨が過剰に溶けてもろくなってしまいます。骨が変形して神経が圧迫されると、痛みが生じます。腰や背中の骨に起こると、脊髄を圧迫して下肢のまひやしびれ、排尿・排便障害を引き起こすこともあります。さらに骨の破壊が進むと、全身で骨折を起こすようになります(病的骨折)。特に体重のかかりやすい背骨や腰の骨で起こりやすく、腰痛や骨折で受診し、多発性骨髄腫が見つかることも少なくありません1,2)。高カルシウム血症骨が過剰に溶け出すことで、血液中のカルシウム濃度が高くなります。めまい、頭痛、口の渇き、便秘、食欲不振、意識障害などの症状があらわれることがあります2,3)。腎臓の障害骨髄腫細胞がつくり出した大量のMタンパクは、血液に放出され、臓器にも蓄積していきます。血液をろ過して、余分な老廃物などを尿として排泄している腎臓にも負担がかかり、腎臓の障害を引き起こすことがあります。具体的には、むくみ、尿の量が減る、倦怠感などの症状があります2,3)。貧血骨髄腫細胞が骨髄で増えると、正常な血液細胞をつくることが難しくなります。赤血球が減少すると、倦怠感や息切れ、動悸などの貧血症状があらわれます2)。その他の症状多発性骨髄腫では、CRAB症状のほかにも、下記のような症状が起こることがあります。造血機能の障害による症状骨髄腫細胞が増殖することで、貧血以外にも下記のような症状が起こることがあります。白血球の減少:細菌やウイルスなどの外敵とたたかう免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。のどの痛みや発熱のほか、口内炎、尿路感染症などを引き起こすこともあります1,2)。血小板の減少:出血しやすくなります。青あざ(皮下出血)ができやすくなったり、鼻血や歯ぐきの出血などが起こりやすくなったりします1,2)。Mタンパクによる症状骨髄腫細胞から大量のMタンパクがつくられることで、腎臓の障害以外にもさまざまな症状が引き起こされます。過粘稠度(かねんちゅうど)症候群:血液中のMタンパクが増えると、血液の粘り気が強くなり、血液の循環が悪くなります。頭痛やめまい、耳鳴り、目が見えにくくなるなどの症状があらわれることがあります2)。アミロイドーシス:Mタンパクが変化してできた「アミロイド」という物質が臓器や体の組織に沈着して起こる障害の総称です。具体的には、手のしびれや痛み、めまいなどが起こることがあります3)。感染症:異常な抗体であるMタンパクが増えることで、体の免疫機能を担っている正常な抗体が減少してしまい、肺炎や尿路感染症などの感染症が起こりやすくなります2)。【出典】1) 木崎昌弘監修:よくわかるがん治療 血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫 主婦の友社:112-113, 20202) 神田善伸監修:ウルトラ図解 血液がん 法研:66-71, 20203) 国立がん研究センター:がん情報サービス 多発性骨髄腫.[更新・確認日:2023年12月6日] https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/index.html(2024/1/3参照)【監修】 独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター 血液内科 臨床研究部長 角南一貴 先生更新年月:2024年4月ONC46N021B