慢性骨髄性白血病(CML)を学ぶ分子標的薬チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)CML治療で使われるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、2001年に最初の薬が承認され、現在日本では5種類のTKIが使用可能です1)。最初のTKIが登場するまでは、慢性期の状態を長く保つことが難しく、CMLで亡くなる患者さんも少なくありませんでしたが、TKI治療が普及してからは、寛解の状態を長く維持できる患者さんが増え、CMLが原因で亡くなることは減りました2)。【チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の作用】3)フィラデルフィア(Ph)染色体が産生したBcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)は、ATPというエネルギー物質が結合することによって活性化し、「異常な白血病細胞をつくれ」という指令(増殖シグナル)を出します。TKIは本来ATPというエネルギー物質が結合する部位に、代わりに結合することで、ATPの結合を防ぎます。その結果、Bcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)は増殖シグナルを出すことができなくなり、徐々に白血病細胞が減り、正常な血液細胞が増えていきます。図:チロシンキナーゼ阻害薬の作用3)治療前:Bcr-Abl1蛋白(チロシンキナーゼ)にATPが結合すると、「異常な白血病細胞をつくれ」という指令(増殖シグナル)が伝達されて、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞は増殖する治療後:TKIがBcr-Abl1蛋白(チロシンキナーゼ)のATPが結合する部位を占拠すると、増殖シグナルは伝達されず、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞は増殖できず死滅し、正常な造血細胞が回復する宮崎仁:もっと知りたい白血病治療 患者・家族・ケアにかかわる人のために 第2版 医学書院:73, 2019STAMP(スタンプ)阻害薬2種類以上のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療を受けて十分な効果が得られなかった、または副作用で治療が続けられなかった場合に使われる飲み薬です1)。TKIとは異なる部位に結合し、Bcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)の形を変形させることで、「異常な白血病細胞をつくれ」という指令を出せないようにします4)。※ここでは、現在の慢性骨髄性白血病(CML)の標準治療となっているTKIなどの分子標的薬について紹介しましたが、病気の進行状況によっては、化学療法や造血幹細胞移植(同種移植)が行われることもあります。治療が効かなくなるのはどんなときですか?これまで使用していたTKIで十分な治療効果が得られなくなった場合、突然変異による遺伝子異常が生じてBcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)の形が変わってしまい、薬が結合できなくなったり、結合できても外れやすくなったりしたことが原因の1つだと考えられます。また、Bcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)とは異なる経路で病気を進行させるスイッチが入ってしまい、TKIが作用できなくなることも原因と考えられています。その他にも、治療薬が効かなくなる理由として、下記のようなことが考えられ、別の治療薬への切り替えが検討されます5,6)。Bcr-Abl蛋白(チロシンキナーゼ)が過剰につくられている服用した治療薬が体内に十分に吸収されていない治療薬が白血病細胞の中に入りにくい治療薬が白血病細胞の外に排出されやすくなっている【出典】1) 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版.金原出版:109-110, 113-114, 20232) Mughal TI, et al.: Haematologica 2016; 101: 541-558.3) 宮崎仁:もっと知りたい白血病治療 患者・家族・ケアにかかわる人のために 第2版 医学書院:73, 20194) 入山規良:J Nihon Univ Med Ass. 2022; 81: 193-196.5) 椿正寛:YAKUGAKU ZASSHI 138:1461, 20186) 矢ケ崎史治:日本内科学雑誌 96:1411, 2007【監修】 金沢大学医学部血液内科 教授 宮本 敏浩 先生更新年月:2024年9月ONC46N018B